3Dプリンターを使った新しい歯科治療

はじめに


近年、人工知能・IoT・ビッグデータ・自動運転など、コンピュータ技術の目覚ましい進歩により、数年前では考えられなかった様なさまざまな技術が開発されて、雑誌や新聞などのメディアを日々賑わせています。

このようなデジタル技術の進歩は、実は歯科にも恩恵を与えており、種々の新しい歯科治療法が開発されています。これから10年もすれば、歯科治療の方法は今とは大きく変わっていると考えられます。

そんな新しい技術のひとつに3Dプリンターを使った歯科治療があります。3Dプリンターを使った新しい歯科治療について紹介します。

3Dプリンターってなに?


三次元のデータを元に、立体製品を作り上げる装置のことです。3Dプリンターで用いられている作成方式は、積層造形法とよばれる方法です。

現在、積層造形法には、光造形法・粉末法・熱溶解積層法・シート積層法・インクジェット法の5種類の方式があります。

3Dプリンターの歴史

写真は3Dプリンター photo by WIKIMEDIACOMMONS

3Dプリンターは、実は1980年代に児玉秀男さんという日本人の手によって開発された技術が元になって作られた装置です。

ところが、児玉さんが特許を申請するのを忘れたいたことに目を付けたアメリカ人が、児玉さんの特許の請求期限が切れるのを待って、アメリカで特許を取得しました。

そして、3Dシステムズをいう会社を起こし、1987年に世界初の3Dプリンターを発売しました。

それから20年後、特許の消失により、多くの企業により3Dプリンターが発売されるようになりました。

最近では、オバマ元大統領が2014年の一般教書演説で3Dプリンターのことを、あらゆる物作りに革命を起こすものと述べるほど、社会に大きな影響を与える存在になってきました。

歯科での3Dプリンターの使い道について


工業製品の世界では、3Dプリンターはデザインや機能の検討のための試作品を作るところに利用されたり、テスト用の部品作りやエンジンの部品作りなどいろいろな方面で活用されています。

医療の世界でも、広く活用されつつあり、整形外科では手術前の評価目的に、3Dプリンターを使った模型が利用されています。

歯科の一分野である口腔外科の領域でも、顎変形症という顎の骨格異常の手術や、悪性腫瘍の手術の手術前の診断や、手術のシミュレーションに応用されています。

一般的な歯科治療でも同じように、仮歯や仮の入れ歯の試作品の作成や、インプラント前の顎の骨のモデル作成から、行なわれるようになりました。

写真はイメージです。 photo by MaxPixel

現在ではさらに進んで、銀歯などの被せもののもとなるワックスパターンとよばれるものを作ったりするだけでなく、矯正歯科治療での歯を動かした際のシミュレーション模型や、親知らずを抜歯し、他の抜歯する歯に移植することが可能かどうかのシミュレーションにも使われるようになってきました。

3Dプリンターの応用はそれだけではありません。現在、歯科医院で歯型をとって、それに石膏を流し込み歯の模型を作ります。

その歯の模型を歯科技工所に送り、被せものや入れ歯を作っているのですが、歯を模型を送るために宅配便を利用したり、歯科技工所の担当者が来院したりと、手間がかかります。


そこで、インターネットを応用する全く新しい手法が考えられています。これは、歯型を石膏模型ではなく、データとして数値化し、オンラインで歯科技工所に発注します。

歯科技工所側では、オンラインで送られてきたデータを元に、3Dプリンターを使って自動的に被せものや入れ歯を作ります。

ここまでくれば、従来の歯科医院と歯科技工所の関係そのものが大きく変わってくるでしょう。

歯科技工所における3Dプリンターの恩恵


デンタルショーとよばれる歯科の展示会で将来の歯科技工所のコンセプトが発表されました。

現在の歯科技工所では、ワックスを溶かして、ひとつひとつの被せものを手作りで作っています。

加工する過程で火や熱を使うので暑かったり、石膏や金属を削ったりするので騒音や粉じんが俟ったり、とちょっとした町工場の様な騒々しい環境にあります。

しかし、将来の歯科技工所ではそのような環境から解放されます。

写真はイメージです。  photo by WIKIMEDIACOMMONS

歯科医院で光学印象とよばれるスキャナーで取り込んだ歯や顎のデータと、デジタルレントゲン写真のデータがインターネットで送られてきます。

歯科技工所のコンピュータがそのデータを解析し、被せものや入れ歯をコンピュータの中でシミュレーションし、歯科技工士が、パソコンの画面で分析します。

3Dプリンターで仮歯を作り、出来上がった仮歯を改めて確認して、修正箇所をコンピュータに入力して、3Dプリンターを使って、完成品を仕上げるというものです。

歯科技工士が、ひとつひとつの被せものや入れ歯を手作業で作ったり、磨いたりすることはありません。コンピュータに入力し、仕上がりを確認するのが、歯科技工士の主な仕事となります。

この将来の歯科技工所は、パソコンと3Dプリンターとそれをおいた机と椅子で構成されており、あたかもオフィスといった感じになっています。歯科技工士は、清潔で静かな環境で仕事をすることが出来るようになります。

患者さんが受ける3Dプリンターの恩恵


患者さん側にも3Dプリンターによる歯科治療の恩恵はあります。

歯科治療では、歯型をとる時に、アルジネート印象材やシリコーン印象材とよばれる粘土の様なものをトレーに持って、歯や歯茎にあてて固まるまで待つという方法が行なわれています。

この方法では、精度の高い歯や歯茎の型を取ることが出来る反面、固まるまでお口の中から取り出すことが出来ません。

硬化時間は数分ですが、非常に不快感を伴う時間であることには変わりありません。特にえずきやすい人には、なおさらです。

写真はイメージです。 photo by pxhere

そして、とれた歯型に石膏を流し込んで石膏模型を作り、歯科技工所に発注します。作ってもらいたい被せものや入れ歯の種類によって変わってきますが、一般的に歯科技工所から完成して送られてくるのに1週間ほどかかります。

ところが、3Dプリンターが応用されるようになれば、この状況が一変するかもしれません。

まず、歯型をとる際に、今のようなアルジネート印象やシリコーン印象という方法ではなくなります。光学印象とよばれる、スキャナーを歯や歯茎にあてて、照らし出してスキャンするという方法になります。これにより、違和感が大幅に少なくなります。そして、歯型をとる時間も短くなります。

光学印象で得られたデータは、そのままオンラインで歯科技工所に送られます。3Dプリンターにデータを入力すれば、数時間で完成します。当日、もしくは翌日には、歯科技工所から歯科医院に向けて発送されます。

もし、3Dプリンターが歯科医院に設置されていれば、その日のうちに出来上がるのも夢ではありません。つまり、被せものや入れ歯の完成までの日数も短く出来るのです。

保険診療の対象外となりますが、現在でも被せものを作る段階だけなら、CAD/CAM冠という被せものであれば、装置さえ歯科医院に設置されていれば、即日完成も可能な場合もあります。

このように、3Dプリンターは、歯科医院や歯科技工所側だけでなく、患者さんにとっても大きな恩恵があります。

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