獣医学教育の歩みと今後の獣医学は 一部の分野では獣医師不足も

[獣医師といえば?]

みなさんは、「獣医師」と聞いて、どのようなイメージを思い浮かべますか。

すぐに、思い浮かぶのは、動物のお医者さんとしての犬や猫のお医者さんではないでしょうか。

獣医師の仕事はそれだけでありません。私たちの生活にも「大きく関わって」います。

獣医師になるためには、大学の獣医学科を卒業し、獣医師国家試験に合格する必要があります。

この獣医学科の歴史は古く、明治維新をむかえ、さまざまな西洋文化が入ってくるとともに、西洋から獣医学の知識も入ってきました。


写真はイメージです。 photo by skeeze

[獣医学教育の歩み]

西洋式の獣医学の教育のはじまりは、明治11年(1878年)に現在の東京大学農学部や東京農工大学農学部の前身である「駒場農学校」です。

とくに、各地にあった農業高等学校や農林専門学校に、数多くの獣医学科が開設されます。

戦前の獣医学であつかったのは、軍用や畜産に使われる動物が中心で、軍事力としての「馬」の分野が強力に獣医界をリードします。戦前の獣医学では「大型動物の臨床」が主体でした。

日本は太平洋戦争に敗れ、1949年に学制改革が行われます。それまであった農業高等学校や農林専門学校などの獣医学科は整理・統合され、4年制の新制大学獣医学科での教育となりました。現在の6年制になったのは1984年です。

この時期の前後に、おおくの法律の整備も行われました。これらの法律に関連して、獣医師の業務の範囲は飛躍的に広がります。いろいろな方面にわたって、おおくの獣医師が必要になったのです。

獣医師法

家畜伝染病予防法

家畜改良増殖法

農業災害補償法

と畜場法

食品衛生法

狂犬病予防法

動物愛護法

 

 

広がった獣医師の業務

 

農林水産分野小動物臨床分野

野生動物関係分野

動物愛護関係分野

公衆衛生分野

バイオメディカル分野

海外関係分野

 

獣医師の業務は、新たな感染症の予防や国際協力など、その時代や社会情勢に応じて範囲も広がっています。

獣医学教育も、幅広い分野への対応するために教育内容の充実や改善に向けて、つねに取り組まれてきました。この取り組みは「現在」も続いています。その成果は「積み重ねられていっている」といえるでしょう。

いまでは、日本の獣医師数は世界で2番目の多さを誇っています。

日本アメリカイギリスドイツフランスオーストラリア
獣医師数39,19790,20931,31830,59232,36712,746

[農林水産分野と公衆衛生分野]

広範囲におよぶ獣医師の仕事ですが、そのなかでも農林水産分野と公衆衛生分野で獣医師が不足しており、深刻化しつつあるといわれています。

農林水産分野と公衆衛生分野は、獣医師のどのような仕事なのでしょうか。私たちの生活や社会にも密接に関係している分野なのです。

農林水産分野

・乳牛、肉牛、馬、豚、鶏などの家畜の診療や病気の予防や衛生管理。

・家畜の伝染病の防疫や繁殖動物用、医薬品の安全性確保。

・水産試験場などでの魚の病気の診断や防疫。

公衆衛生分野

・牛肉、豚肉、鶏肉などの食用となる肉類の検査。

・牛乳や魚介類などあらゆる食品についての製造施設や販売店などで検査や指導。

・輸入食品の検査や取り扱いの指導。

・人畜共通感染症の調査活動や研究活動。

・検疫官として海外からの感染症が国内に侵入の防止。

[獣医師不足の問題と今後は]


写真はイメージです。 photo by WIKIMEDIACOMMONS

農林水産分野と公衆衛生分野で獣医師が不足については、さまざまな理由があります。

農林水産分野については、とくに、獣医師の高齢化が進んでいます。新しい獣医師の参入の減少が進むと、減る一方になってしまいます。

しかし、農業共済組合が積極的な取り組みを進めており、獣医学科の学生も大動物の学内実習や農家での実習で関心を高め、農林水産分野に進む学生も増えてきています。

公衆衛生分野については、地方公務員になる必要があります。都市部については充足していますが、地方では少なく、長い間にわたって深刻な状況が続いています。

青森県では、地方公務員になる獣医師の待遇改善に努めるなどの取り組みをしています。今後は、地方自治体レベルで取り組むところも増えてくるのではないでしょうか。

また、2016年11月に、日本医師会と日本獣医師会は「One Health」という学術協力を結びました。これは、「人間の医学」も「動物の獣医学」も同じ医学であり、人間も動物も共通であるという考え方です。

このような考えが普及することで、一歩、踏み込んだ医学や獣医学に進むことも期待されます。獣医師不足といわれる状況にも、改善がみられるのではないでしょうか。

 

 

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