1型糖尿病治療におけるインスリン製剤の低血糖リスクの比較

1型糖尿病の発症率は、10万人あたり1~2人と言われており、全糖尿病患者数の約5%を占めています。発症数は多くないものの、おもに小児期に発症し、長期にわたる厳重な血糖コントロールが必要となる難病です。

1型糖尿病とは

生活習慣が関わる2型糖尿病とはことなり、1型糖尿病の発症には自己免疫が深く関わると考えられています。免疫細胞が自身の細胞を攻撃することで、細胞が壊れ、正常に働かなくなるという説が有力です。1型糖尿病では、インスリンを分泌するβ細胞の破壊がみられます。

インスリンは臓器への糖取り込みや、貯蔵糖の合成などを促進する作用をもっており、血糖を低下させ、濃度を一定に保つ役割を担っています。そのため、インスリンが十分に分泌されないと、血糖があがったままの状態となり、血管障害や腎障害、神経障害、網膜症などの合併症を引き起こします。

1型糖尿病の治療では不足しているインスリンを補充し、血糖をコントロールすることで合併症の発症を防ぐことが大切になります。そのため、1型糖尿病の治療は一般的にインスリン製剤が用いられます。治療を中断すると命に関わる危険性があるため、継続して取り組むことが重要です。

健常人では、常に少量のインスリンが分泌されており(基礎分泌)、食事によりさらに分泌量が上昇(追加分泌)します。そのため、インスリン治療では基礎分泌を補う製剤と追加分泌を補う製剤を使用し、良好な血糖コントロールの維持を目指します。


青がインスリンの血中濃度 それぞれの食事のあとに上昇している
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使用する薬剤や使用量などは患者さん一人ひとりに合ったものが選択されます。

1型糖尿病のインスリン治療

1型糖尿病治療には欠かすことのできないインスリン製剤ですが、注意しなければいけないこともいくつかあります。ひとつが、低血糖症状です。血糖は高すぎても問題ですが、低くなりすぎても危険が伴います。

低血糖になると、まず始めに発汗や手の震え、動機などの自律神経症状が生じ、さらに低下すると眠気やめまいなどの中枢神経症状を引き起こします。さらに進行すると、意識障害を生じ、低血糖昏睡から死にいたることもある危険な症状です。

自律神経症状や中枢神経症状が出ず、いきなり意識障害などの重い状態が発現する無自覚性低血糖症状もあり注意が必要です。

1型糖尿病ではとくに低血糖症状を起こしやすいといわれています。普段から体調の変化に注意することも大切ですが、低血糖を起こしにくいインスリン製剤の開発も求められています。

インスリン製剤の比較試験

2017年7月のJAMAで発表された「Effect of Insulin Degludec vs Insulin Glargine U100 on Hypoglycemia in Patients With Type 1 DiabetesThe SWITCH 1 Randomized Clinical Trial」では、基礎インスリン製剤であるインスリン デグルデク(商品名;トレシーバ)とインスリン グラルギンU100(商品名;ランタス)の低血糖発生件数を比較し、報告しています。

少なくとも1つの低血糖症危険因子をもつ1型糖尿病患者さん(計501人、平均年齢45.9歳、男性53.7%)を対象に、インスリン デグルデクを16週間投与後にインスリン グラルギンU100を16週間投与する群とインスリン グラルギンU100を投与後にインスリン デグルデクを投与する群に分け、クロスオーバー非劣性試験を行っています。

その結果、全体的な低血糖発生数はインスリン デグルデクでは2200.9回/100人年であったのに対し、インスリン グラルギンU100では2462.7回/100人年となりました。

夜間低血糖の発生数をみると、インスリン デグルデクで277.1回/100人年、インスリン グラルギンU100で428.6回/100人年となりました。また、重度の低血糖が生じた割合はインスリン デグルデクでより低い結果となりました。


写真はイメージです。 photo by Pixabay

このことから、インスリン デグルデクはインスリン グラルギンU100に比べて、1型糖尿病における低血糖のリスクを低下させることが示唆されました。

今後への期待

1型糖尿病の患者さんは、小さいころから長期にわたる治療を必要とします。高血糖による合併症だけではなく、治療による低血糖にも注意が必要であり、患者さんおよびその周囲の方々の負担は大きいものになります。少しでも良好な治療ができるよう、効果的で安全性の高い薬が求められています。

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