インジウムとその毒性について

インジウムってなに


「インジウム」といわれても、耳にしたことがある方は少ないかもしれません。インジウムは希少性が高いレアメタルのひとつで銀白色の柔らかい金属です。

インジウムは酸化化合物の形で用いられることが多く、とくに「酸化インジウム・スズ-ITO(Indium Tin Oxide)」は電気伝導性と透明性ならびに赤外線制御に優れています。

インジウム photo by WIKIMEDIACOMMONS

この性質を活かして、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネル、半導体、太陽電池、帯電防止剤、LED、赤外線センサー、赤外線遮断など幅広く用いられています。

私たちが身近に使っている「液晶テレビ、スマートフォン、パソコン」にも使用されています。

「ITO」以外にも、酸化インジウム、三塩化インジウム、水素化インジウム、硝酸インジウムなどがあり、いろいろな用途に使われています。

インジウムについては資料が乏しかったこともあり、安全性の高いものとされていました。2001年にインジウムが原因による間質性肺炎の死亡事例が報告され、インジウムの毒性が認識されるようになりました。

インジウムの毒性


報告された事例は、28歳男性で「ITO」を使用した材料の研磨作業に3年間従事していました。

だんだんとひどくなる乾いた咳、呼吸困難、寝汗、食欲低下および10ヶ月間で10Kgの体重減少を起こし、病院を受診したところ「間質性肺炎」と診断されます。

この時点で症状はだいぶ進行していました。X線分析によりインジウムとスズが検出されたことで、「ITO粒子による間質性肺炎」と確定されます。

ステロイドによる治療をおこいましたが効果がみられずに、2001年4月に両肺の気胸を起こし死亡しています。

その後も、ITOが原因とされる「間質性肺炎、肺線維症、肺気腫」と診断された症例が6例報告されています。いずれも、ITOの粉じんを吸入したことによって発症したとされています。

インジウムについてはマウスやラットなどを使用した、さまざまな動物実験も行われました。いずれも肺への重篤な障害や腫瘍の発生が確認されています。

写真はイメージです。 photo by Wikipedia

・三塩化インジウムをラットへ気管内投与や鼻部への投与によって、重度の肺障害と肺線維症が発生した。
・ハムスターへ硝酸インジウムとリン化インジウムを気管内投与して、肺胞および細気管支上皮細胞の増殖、肺炎、肺気腫が引き起こされた。
・ラットおよびマウスへリン化インジウムの吸入実験で肺腺がんの発生が確認された。ラットの雄でのみ扁平上皮がんを確認。他の臓器ではラットの副腎褐色細胞腫、マウスの肝臓がんが見られた。

このように、動物実験でも有害事象を認めていますが、人間で、有害事象が認められているのは、工場などの作業によって「粉じんを数年間にわたって吸い込むこと」のみが原因になります。

私たちの身の回りで使われている製品にも使用されていますが、直接触れるような部分には使用されていません。仮に、触れたりしても問題はありません。

インジウムによる健康被害の発生や動物実験の結果を受けて、厚生労働省では規制に乗り出しました。

インジウムへの対応


2010年12月22日に「インジウム・スズ酸化物等の取扱い作業による健康障害防止に関する技術指針」が通知され、インジウムの取り扱いについて具体的な方法が定められました。

2013年1月1日に「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令」などにより、インジウム化合物は「特定第2種物質」に指定されました。

「特定第2種物質」に指定されたことで、インジウム化合物を取り扱う作業場では、6ヶ月に1回の定期的な作業環境測定の実施と作業員の定期健康診断が義務づけられました。

また、リン化インジウムについては、WHOの外部組織である「国際がん研究機関-
IARC(International Agency for Research on Cancer)」で「グループ2A」に指定されています。

IARC本部 photo by Wikipedia

IARCは化学物質、放射線、ウィルス、食物など人間への「発がん性の証拠の強さ」を評価してグループに振り分けしています。

グループ1人間に対して発がん性の根拠がある。
グループ2A人間に対して発がん性の可能性がある。
グループ2B人間に対して発がん性の可能性が疑われる。
グループ3人間に対して発がん性は明確ではないが否定はできない。
グループ4人間に対して発がん性はおそらくないもの。


私たちはインジウムも含めいろいろ化学物質から、生活を豊かにするという多くのメリットを享受しています。

その反面、思わぬ健康被害が発生する事例を耳にすることがあります。過剰な心配はよくないですが、情報のアンテナを高くもつことが必要ではないでしょうか。

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