BRCA変異陽性転移性乳がんに対するオラパリブの効果

現在日本では、新規に乳がんと診断される患者さんが、年間約9万人います。その中でも、5~10%の患者さんは遺伝的な要因が発症に深く関係しているといわれています。BRCA遺伝子の変異も遺伝性のリスク要因のひとつです。

しかし、変異があることにより発症リスクが高くなることは知られていたものの、BRCA変異陽性乳がんの有効的な治療方法は少なく、新しい治療薬の開発が求められてきました。

BRCA変異と乳がん

BRCAはDNAの修復に関わるがん抑制遺伝子であり、変異があることにより、卵巣がんや乳がんの発症リスクが高くなることが知られています。BRCA変異がなく、家族にも乳がん既往歴のみられないひとに比べて、BRCA変異をもつひとは、6~12倍もの乳がん発症リスクがあると報告されています。

BRCA変異陽性の乳がんは、若年で発症する傾向があり、その他にも、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2の発現がないトリプルネガティブの乳がんを発症しやすいことや、両方の乳房にがんが発症するなどの特徴が挙げられます。


写真はイメージです。 photo by photoAC

BRCA変異陽性乳がんに有効な治療薬とは?

乳がん治療の基本は手術になりますが、再発や転移がみられた場合には、手術の他にも放射線療法や内分泌療法、化学療法、分子標的薬が選択されることがあります。患者さんの病態やHER2過剰発現の有無、ホルモン感受性であるかなどさまざまなことを考慮して、一人一人に合った治療法が選択されます。

しかし、BRCA変異陽性乳がん患者さんではトリプルネガティブであることが多く、分子標的薬や内分泌療法が効かず、有効な治療法が少ないことが問題となっていました。このような状況のなか、BRCA変異陽性転移性乳がん患者さんに効果が期待されているのが、PARP阻害薬オラパリブです。

PARPもDNA修復に関わる酵素であり、BRCAが関与するDNA修復経路とPARPによる修復経路、合わせて2つの修復機構によりDNAの安定化を行っています。

オラパリブはBRCAが変異し、1つの経路が上手く働いていない細胞に特異的に作用し、もう一方の経路も阻害することで、DNAの修復を抑制し、がん化しやすい細胞を自然死へと導く効果のある新機序の薬です。日本ではまだ承認されていませんが、欧米では進行性卵巣がんの治療薬として承認されており、BRCA変異陽性卵巣がん患者さんへの効果がみとめられています。

BRCA陽性転移性乳がんに対するオラパリブの効果

Olaparib for Metastatic Breast Cancer in Patients with a Germline BRCA Mutation」では、BRCA変異陽性の転移性乳がん患者さんに対するオラパリブの有用性を検討しています。

HER2陰性で、これまでに受けた化学療法レジメンが2種類以下のBRCA変異陽性の転移性乳がん患者さんを対象に、オラパリブ単独投与(1回300mg 1日2回)または標準療法(カペシタビン,エリブリン,ビノレルビンのいずれかを 21 日サイクル)を行い、無増悪生存期間について比較しています。

その結果、無増悪生存期間の中央値はオラパリブ投与群で7.0か月、標準療法群で4.2か月(進行または死亡のハザード比0.52)となり、オラパリブ投与により有意に期間が延長しました。奏効率は、オラパリブ投与群で59.9%、標準療法群で28.8%となりました。重大な有害事象(グレード3以上)が発現した割合は、オラパリブ投与群で36.6%、標準療法群で50.5%となり、投与が中止となった割合は、オラパリブ投与群で4.9%、標準療法群で7.7%となりました。

このことから、HER2陰性BRCA変異陽性の転移性乳がん患者さんにおいて、オラパリブの単独投与は化学療法と比較して、無増悪生存率を改善することが示唆されました。


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今回の論文により、オラパリブが、進行性卵巣がんだけではなく、BRCA変異陽性の転移性乳がんにも効果的であることがしめされました。治療の選択肢が広がり、病気の進行の遅延、QOLの改善につながることが期待されています。今後、オラパリブが日本でも承認されるか、また転移性乳がんに対して適応が追加されるのか注目が集まります。

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