児童養護施設の多くの子どもたちが抱える愛着障碍とは

児童養護施設の子どもたちとお話をされたことがありますか? ボランティア活動などで児童養護施設を訪問された方々が一様に言われるのは、施設の子どもたちはとても明るくてそれで自分を慕ってくれて、一緒に遊んで楽しかったということです。幼児から小学校低学年くらいまでに言えることですが、児童養護施設の子どもは初対面の大人を警戒する様子があまりありません。抱きついたりする子もいて身体的な接触にも抵抗感を見せません。極端なケースですとよく知らない大人にチューしようとしたりします。でも普通の子どもはもっと人見知りするものです。なぜ施設の子どもたちはそんなに人懐っこいのでしょうか?


写真はイメージです。 photo by  pixabay

子どもは幼少期に、多くの場合それは母親ですが、自分が優しく守られていると感じられる精神的安全基地を獲得します。そしてその安全基地から次第に人間関係を広げていくことで自然な対人関係の構築を学びます。他の子どもと遊んで泣かされたりすれば、エーンと優しい母親のところに駈けもどる。すると母親は優しく包んでくれます。それで再び安心を得てそしてまた外部との接触に出て行く。それを繰り返すことで自分は守られている存在だという安心を外に出ていても感じるようになります。そして自分を取り巻く社会に対して適切な対人関係を築いていきます。母親という安全基地を中心として、父親、兄弟、家族、さらには親戚のおばさん、近所のおじさん、学校の友達、あるいは学校の上級生、下級生、先生、それぞれの距離に合わせて自然な応対ができるようになるのです。

児童養護施設の子どもの多くは幼少期に親から大切にされてきておらず、むしろ虐待を受けるなどして安全基地を持たないまま成長していくことになりがちですからこのプロセスが抜け落ちてしまいます。そうすると自然な対人関係を築くことや感情のコントロールが難しくなります。心の中に安心を欲する強い気持ちがありますがそれは満たされることはなくいつも漠然とした不安を抱えています。人を容易に信じなく、一方で過度な愛情表現を求めたりもします。これを愛着障碍と呼びます。

愛着障碍を持つ子どもは誰にどれだけ甘えて良いかわかりません。また人に対して自分からの距離に合わせてなだらかに態度を変えることが難しくなります。不自然に人に対してなれなれしいとか、また妙に従順であったりする一方で、他の子どもに支配的に振る舞ったり、いじめたりなど、極端な態度を取ることが多いのです。


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最近は大人の愛着障碍も話題になることがあります。一見普通の家庭で育っても幼少期に十分な愛情を受けていないと、程度の差こそあれ愛着障碍を持つ可能性があります。大人の愛着障碍でも基本的な症状は子どもの愛着障碍と共通しています。ただ大人の分別によってその人なりに抑制された出方をします。例えば従順か支配かという極端な人間関係を求める傾向のため人づきあいに難しさを感じたりします。人を素直に信じるのが難しく、愛情を素直に受け入れられないために恋愛に難しさを感じたりもあります。

愛着障碍の根幹的治療は家庭的な温かみが感じられる環境で、精神的な意味で幼児期をやり直すことです。それは児童養護施設の集団生活では限界があります。どうしても一人の大人が一人の子どもにかかりきりになることはできません。ひとつの解決策として一般の方にお願いする里親制度というものがあります。子どもがまだ小学生に入る前くらいであれば成功する可能性は高くなります。やり直すのは早い方が良いのです。ただ里親さんの数は不足しているのが現状です。施設の小規模化も進められていますが、愛着障碍の治療という意味ではまだまだ十分に家庭的とまではいきません。

愛着障碍は幼児期をやり直すことだけが治療法ではありません。仮に施設の集団生活でも、また社会に出てからでも、良い出会いを得ることで次第に克服していくことが多くあります。それは恋人であったり伴侶であったり、また友人であったり先生であったり、そして長く見守ってくれる施設の職員であったり。安全基地を複合的に構築すると言えるかもしれません。やはりたくさんの良い出会いを得ることで人は成長していくものなのですね。

 

 

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