BRCA変異陽性進行性卵巣がんに対するオラパリブの有用性

医療技術の進歩により、発症の原因となる特定の遺伝子変異や染色体の異常などを検出できるようになり、検出されたリスク因子に効果的な治療薬の開発がすすんでいます。BRCA遺伝子の変異も、がんの発症、進行に深く関わるリスク因子のひとつであり、BRCA変異陽性のがん患者さんの希望ともなる治療薬が開発されています。


写真はイメージです。 photo by photoAC

BRCAとは?

BRCAはがん抑制遺伝子であり、変異がある場合、卵巣がんあるいは乳がんの発症リスクが高くなることが知られています。BRCA変異は全乳がん患者さんの5~10%、全卵巣がんの約15%にみられます。BRCAの変異は遺伝すると考えられており、遺伝性乳がん患者さんでは約20%にBRCA変異が検出されます。

BRCAの転写産物は、損傷したDNAを修復し、安定化する役割を担っています。そのため、変異によりBRCAが上手く機能しなくなると、DNAが適切に修復されず、細胞ががん化する可能性が高まります。

BRCA変異をもつがん患者さんは進行が早く、再発するリスクも高いことが知られており、BRCA変異陽性の患者さんに有効な治療法が求められていました。

BRCA陽性卵巣がんに対する治療薬

そこで開発されたのが、オラパリブです。

オラパリブは、poly(ADP)-ribosepolymerase(PARP)というDNA修復酵素を阻害する薬です。BRCAが2重鎖DNAを修復するのに対し、PARPは1重鎖DNAの修復に関わる酵素です。

オラパリブは、DNA修復経路に異常をきたしたがん細胞特異的に作用し、効果を発揮します。BRCA変異により2重鎖DNA修復が上手く機能していない状態の細胞に、さらに1重鎖DNA修復経路を阻害する薬が作用することにより、2つの修復機能が働かなくなり、細胞死を誘導すると考えられています。


写真はイメージです。 photo by pixabay

Olaparib Maintenance Therapy in Platinum-Sensitive Relapsed Ovarian Cancer」では、白金製剤感受性の再発性卵巣がん患者さんに維持療法としてオラパリブを投与し、有効性を検討しています。この論文では、白金製剤ベースの治療を2コース以上受け、部分奏功または完全奏功となった白金製剤感受性の再発高悪性度漿液性卵巣がん患者さんを対象に、オラパリブ(1回400mg、1日2回)投与群とプラセボ群に分け、無増悪生存期間について解析しています。

その結果、無増悪期間の中央値は、オラパリブ投与群で8.4か月、プラセボ群で4.8か月(増悪または死亡のハザード比0.35)となり、オラパリブ投与群で有意な無増悪期間延長がみられました。また、オラパリブ投与群で増悪リスクの低下がみられました。有害事象は、悪心、倦怠感、嘔吐、貧血がプラセボ群よりも高頻度でみられました。

これらの結果から、白金製剤感受性の再発高悪性度漿液性卵巣がんの維持療法にオラパリブの投与を行うことで、無増悪生存期間が改善することが示唆されました。

また、国際共同第lll相臨床試験(SOLO-2試験)では、BRCA 変異陽性白金製剤感受性の再発卵巣癌患者さんを対象に、オラパリブ投与(1回300mg、1日2回)とプラセボを比較したところ、無増悪生存期間の中央値19.1か月vs5.5か月という結果となり、オラパリブの無増悪生存期間の有意な延長がしめされました。

これらの研究報告から、欧米ではすでに、BRCA変異陽性の進行卵巣がんの治療薬として承認されています。日本でも、2017年3月に希少疾病用医薬品の指定を受け、今後の承認取得に期待が集まっています。

 

オラパリブはDNA修復経路に働く新機序の薬であり、今まで有効な治療法の乏しかったBRCA陽性卵巣がんの治療薬として、日本での承認も期待されています。卵巣がんの他にも、BRCA変異陽性の乳がんや前立腺がんに対する有効性も報告されており、今後の動向に注目です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました