高安病-高安動脈炎 難病のひとつで太い血管が炎症を起こす病気です 

[高安病を知っていますか]

「高安病」という病気を聞いたことがあるでしょうか。高安病は全身にある大きな血管に炎症が起きる病気です。大きな血管とは心臓から直接つながる大動脈とそこから分岐する血管と肺動脈のことで重要な器官に血液を送る役目をしています。

高安病は正しくは「高安動脈炎」といいます。高安病の名前の由来は、1908年(明治41年)に現在の金沢大学医学部である金沢医学専門学校の高安右人眼科教授が「奇異なる網膜中心血管の変化の1例」として症例を学会で報告しました。その後、眼科医によって多数の症例報告がされ「高安病」と言われるようになりました。


高安右人 photo by Wikipedia

研究が進むにつれて広い範囲の大動脈に病変が見られることがわかり「大動脈炎症候群」といわれていましたが、現在では国際的に高安動脈炎で統一されています。また、脈が触れなくなる独特な症状から「脈なし病」ともいわれています。

大きな血管に炎症を起こす高安病はどのような病気なのでしょう。

[高安病の症状や治療は]

高安病は若い女性に多い

高安病は女性に多い病気で患者の9割が女性です。好発年齢は10代後半から20歳をピークに15歳から30歳の女性に多く見られます。男性の場合には年齢は関係ありません。

高安病の原因は分かっていません

高安病の原因は分かっていません。ステロイドや免疫抑制薬で効果が見られるので自己免疫の異常が関係している、ウィルスなどの感染が原因で血管に炎症おき持続してしまっているなどともいわれています。

カゼのような症状から始まります。

初期症状は微熱、倦怠感、疲れやすいといったカゼのようなはっきりしない症状です。ただのカゼと思ってしまう場合が多いようです。症状が進むにつれて全身症状として食欲低下、体重減少、筋肉痛、関節痛があらわれます。

さらに、炎症によって障害受けた血管の場所によっていろいろな症状があらわれ、血管が炎症を受けたことによる合併症も引き起こされます。


写真はイメージです。 photo by flickr

すべての症状が必ずあらわれるわけではなく、症状の出方も人によって異なります。

障害を受けた血管症状と合併症
腕-鎖骨下動脈左右の腕で血圧の左右差がでたり、脈が触れなくなったりします。手に力が入らくなる、腕が疲れやすくなる、腕の痛み、肩こりなど症状があらわれます。指先がしびれるたり、冷たくなる場合もあります。
足-総腸骨動脈腕とおなじような症状がでます。足の場合にはふくらはぎに痛みを感じることも多く、びっこをひくようになります。歩行困難が生じる場合があります。
頭-頸動脈首の痛み、めまい、失神、頭痛、入浴後の異様な疲れ、耳鳴り、難聴、視力障害などが起こります。脳梗塞を起こす場合もあります。
腎臓-腎動脈高血圧がでます。腎臓の機能の低下が見られるようになり、腎不全になる場合もあります。若い人にめずらしい高血圧を発症することがきかっけで高安病と診断されることもあります。
肺-肺動脈疲れやすくなる、血痰が混じる、胸痛などがあらわれます。
心臓-冠動脈心臓への血流が減り、狭心症や心臓発作が起こることがあります。
大動脈胸や背中の痛み、動脈瘤、大動脈弁閉鎖不全による息切れや動悸があらわれます。動脈瘤破裂、心不全につながる場合もあります。大動脈の炎症は多くみられます。

ほかにも下血や腹痛を訴える炎症性腸疾患などいろいろな症状があります。

症状の進み方も個人差があります。ゆっくりと進んで行く場合が多いですが、急に症状が進んでいく場合やあまり症状がでない場合もあります。

高安病の診断の決め手は画像診断

高安病を確定診断するためには、症状の多様性から時間がかかってしまうことがあります。

高安病を診断するために行われる診察や検査は大きく6つに分けられます。

問診高安病の疑いの症状がある。とくに、若い女性の場合は重視されます。
血液検査炎症がある時にみられるCRPの上昇や白血球の増加、IgGやIgAなどの免疫グロブリンの上昇、赤血球沈降速度が早いなどがみられます。炎症が長引くと貧血があらわれます。
画像検査血管の状態や心臓の状態などを確認するためにMRA、CT、心臓エコー、血管造影、PET-CTなどを行います。PET-CT検査は有用な検査の一つですが、現時点で保険適用外です。
ほかの疾患の除外ベーチェット病、動脈硬化、側頭動脈炎、細菌性動脈瘤などの除外をします。
遺伝子検査血液から遺伝子を取り出してHLAを検査します。高安病患者の50%以上ではHLA-B52が高い数値を示します。
合併症の検査血管狭窄、閉塞、拡張、目や耳の異常など調べます。

血液検査と画像検査は必要な検査です。とくに、画像検査が有効な診断になります。画像検査の技術の向上によって早期に診断が可能になり、早期の治療開始ができるようになりました。

早期に治療を開始することで重い合併症を引き起こすことは少なくなっています。

治療の基本は内科的治療

炎症をなるべく早く鎮静化させて合併症を避けることが治療の目的になります。通常は炎症を抑えるためにステロイドである「プレドニン」の治療から開始します。

症状や効果を確認しながら2~4週間投与して効果を確認しながらゆっくりと量を減らしていきます。プレドニンによる副作用を避けるために、最終的には使用を中止する方向に持っていくことを目指します。

減量の過程や薬を中止すると約半数の方に症状が戻るので薬を再開しなければならないことがあります。

ステロイドの効果が十分にでない、減量がむずかしい、副作用がでたなどの場合には免疫抑制薬であるメトトレキサート、アザチオプリン、シクロホスファミドなどを使用します。


写真はイメージです。 photo by freeimageslive

最近では、生物学的製剤という新しいタイプの抗炎症剤であるTNF-α阻害薬、IL-6受容体拮抗薬などが有効という報告があり使用される場合もあります。

症状に応じて血流をよくするための血管拡張薬、血栓防止のための抗凝固薬や抗血小板薬、血圧を下げるための降圧薬などが使用されます。高安病は痛みがからだのいろいろなところにでるために鎮痛薬も処方されます。

治療に用いられる薬には副作用が強いものや保険適用外の薬が含まれます。ステロイドの使用を含め、そのほかに新しい薬を使用するにあたってはお医者さんの話をよく聞き、十分に理解をした上で使用するかどうか決めていきます。

内科的な治療を行うのが原則ですが、血管の症状が進行していた場合には外科的治療も行います。外科的治療は血管の炎症をおさえてから行います。外科的治療の対象となるケースは10%~20%あるとされています。

進行した大動弁脈弁閉鎖不全については人工弁への置換、血管の狭窄や閉鎖については血管の拡張術やバイパス手術、大動脈瘤については人工血管置換術などが行われます。

妊娠・出産は可能なの

若い女性の方が多くかかるために妊娠・出産は避けて通れません。高安病は一人ごとに状況は異なります。先生とよく相談して計画的な妊娠と出産が必要になります。患者さんが納得されうえで妊娠・出産を考えていきます。

まずは、炎症が十分におさまっていていることが必要になります。高血圧や心臓に異常がなく、脳や腎臓の臓器に重い異常がみられなければ、通常は妊娠と出産は可能です。まれに妊娠や出産を契機に症状が再燃することもありますので注意が必要です。

出産後の子育てのほうが大変だという話も聞かれます。まわりの方の理解も必要になるでしょう。

予後も注意が必要です

高安病の予後は画像診断や治療技術の進歩によって確実によくなっています。

炎症がおさまったあとはきわめて慢性的な経過をたどります。症状が落ち着いたあとも合併症を残すケースは少ないとはいえず、炎症が再燃する場合もあります。

そのために抗血小板薬や少量のプレドニンなどの服用を続け、再燃や合併症などの経過観察のために定期的な血液検査と画像検査を受ける必要があります。

血管が炎症によってダメージを受けているため、ダメージを進行させないように喫煙、肥満、糖尿病、高血圧などの動脈硬化を招くような生活は避ける必要があります。禁煙する、偏った食事をしない、規則正しい生活、睡眠を十分とる、過労を避けるなども大事になります。

予後については、お医者さんと相談しながらうまく病気をコントロールするようにします。


写真はイメージです。 photo by WIKIPEDIACOMMONS

[高安病は難病指定されています]

現在、高安病は日本には約6000人の患者がいます。厚生労働省の難病に指定されている病気です。

高安病と診断されてどうしたらいいかわからないなど不安を一人で抱えてしまうのは大変なことです。

同じ病気の方や病気に詳しい方から話を聞くことや相談することができれば不安が少しずつでも解消されていくのではないでしょうか。「あけぼの会-高安動脈炎友の会(日本難病・疾病団体協議会準加盟団体)」という高安病の患者さんの会があり、まずは、相談から受け付けてくれます。

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