甲状腺眼症に対するテプロツムマブの有用性

甲状腺眼症は、おもに甲状腺機能に異常があることで起こる眼の症状のことをさし、瞼の腫れや眼球突出などさまざまな症状を呈します。甲状腺眼症はめずらしい症状ではありませんが、いまだに治療法が少なく、効果的な治療法の確立が求められています。


写真はイメージです。 photo by photo AC

甲状腺眼症とは

甲状腺眼症は、甲状腺機能の亢進がみられるバセドウ病に伴う症状として広く知られていますが、甲状腺機能亢進以外にも、甲状腺機能の低下や、甲状腺ホルモンには異常がなく、甲状腺抗体値だけが異常をしめす場合にも発現します。また、甲状腺機能が正常であっても発症する場合もあります。

甲状腺眼症は、免疫異常で生じた自己抗体が、甲状腺だけではなく、眼の筋肉や眼窩にも影響をおよぼし、炎症を引き起こすことにより発症すると考えられています。筋肉に炎症が起こると、動きが悪くなり、焦点が合わなくなる、ものがだぶって見えるなどの症状や斜視が発現します。また、眼窩にある脂肪に炎症が起こると、脂肪の体積増加にともない眼球が押し出され、眼球突出が発現します。炎症により不可逆的な筋肉の線維化や腫大が生じ、炎症が治まっても症状が残る場合もあります。

甲状腺眼症は、QOLの低下や、美容上の問題となることがあり、甲状腺の治療とは別に、眼科での適切な治療が必要となります。

治療

甲状腺機能に異常がみられた場合には、薬物療法により甲状腺ホルモンを正常化する治療などが行われますが、甲状腺の機能が正常になっても眼症状は治らないことが多く、甲状腺眼症に対する治療が必要となります。

炎症のみられる活動期には、おもに抗炎症作用のあるステロイドの内服が行われます。症状が強い場合や内服では効果が不十分な場合には、パルス療法(ステロイドの大量点滴)が行われます。そのほか、再発を防ぐために放射線療法が行われる場合もあります。

一方、炎症が落ち着いているにも関わらず、眼球突出や斜視が残る場合には、眼の周りの骨を一部削る手術や斜視手術などの外科的治療が行われます。

新しい治療薬の有用性

しかし、活動期の治療法は限られており、ステロイド投与による副作用への懸念もありました。そこで、「Teprotumumab for Thyroid-Associated Ophthalmopathy」では、甲状腺眼症にたいするインスリン様成長因子Ⅰ受容体(IGF-IR)のヒトモノクローナル抗体テプロツムマブの有効性と安全性について報告しています。

中等度から重度の活動期甲状腺眼症の患者さんを対象に、テプロツムマブ投与群とプラセボ投与群に分け、3週毎に全8回の静脈投与(24週)を行い、治療効果を解析しています。治療効果は、甲状腺眼症活動スコアの2ポイント以上の低下をしめし、2mm以上の眼球突出改善がみられることと定義しています。

24週時点で効果がみとめられた割合は、プラセボ群で20%であったのに対し、テプロツムマブ群では69%となり、有意な治療効果がみられました。また、6週時点で効果がみとめられた割合をみると、テプロツムマブ群43%、プラセボ群4%となり、テプロツムマブの即効性がみられました。有害事象は、糖尿病を合併する患者さんで高血糖がみられましたが、糖尿病薬を調節することでコントロールすることができました。

このことから、テプロツムマブは、活動期甲状腺眼症の活動性の低下と眼球突出に有効であることが示唆されました。


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甲状腺眼症は、QOLの低下や美容上の問題などがあり、効果的な治療法が求められてきました。今後、活動期甲状腺眼症の治療法の選択肢が広がり、より多くの患者さんの症状改善に寄与することが期待されます。

 

 

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