急性心不全にトルバプタンは有効か?!

現在、数種類の利尿薬が承認されており、浮腫がみられる心疾患や肝疾患、腎疾患など、広い分野で使用されています。しかし中には、利尿薬の効果が十分に得られない患者さんもいます。新しい薬の開発と、その効果についての研究がすすめられています。

水分のみを排出する新機序薬

心不全や肝硬変などによる体液貯留には、基本的に利尿薬が使用されており、おもに、水分とナトリウムなどの電解質の排泄を促進する機序の薬が用いられています。

しかし、それらの利尿薬は、血中のナトリウムやカリウムの低下をともなうことから、低ナトリウム血症や低カリウム血症の患者さんへの使用には注意が必要でした。また、既存の利尿薬では効果が十分に得られない患者さんもおり、電解質の低下をともなわずに体液貯留を改善する新しい機序の薬がもとめられていました。


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体内では、1日150Lもの原尿が作られていますが、尿管を通るさいに再吸収され、水分が再び体内へもどっていくことで体液量が調整されています。とくに、腎臓の集合管とよばれる部位では、からだの状態に応じて分泌されたホルモンにより、再吸収の調節が行われており、そこにバソプレシン2(V2)受容体が深く関わっていることが知られています。

そこで、V2受容体を阻害し、集合管での水の再吸収を抑制することで、体内貯留を改善することを目的として開発されたのがトルバプタン(商品名;サムスカ)です。

V2受容体の阻害による利尿作用は、水分のみを排出するため電解質の低下を引き起こさないことが特徴であり、低ナトリウム血症などで利尿薬の追加、増量が難しい患者さんへの効果が期待されています。

トルバプタンは、用量により適応が異なりますが、ループ利尿薬や他の利尿薬で効果不十分な場合の心不全または肝硬変における体液貯留、腎容積がすでに増大しており、かつ増大速度の速い常染色体優性多発性のう胞腎の進行抑制に対しての適応が承認されています。なお、心不全、肝硬変の体液貯留に対しては、他の利尿薬と併せて使用されます。

急性心不全に対するトルバプタンの有用性

うっ血性心不全に対するトルバプタンの効果として、体重減少や心性浮腫にともなう所見の改善が報告されていますが、一方で、死亡率や心不全入院率には改善がみとめられないとの報告もあり、さらなる研究がもとめられていました。


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そこで、「Efficacy and Safety of Tolvaptan in Patients Hospitalized With Acute Heart Failure」では、急性心不全で入院した患者さんに対するトルバプタンの効果を発表しています。

24時間以内に入院した急性心不全患者さんを対象に、一定用量のフロセミドに加えて、0時間、24時間、48時間にトルバプタン30mgを投与する群とプラセボ群に分け、24時間の反応性や、症状の改善、腎機能の変化などについて解析しています。

その結果、8時間で呼吸困難が中等度あるいは顕著に改善された割合は、トルバプタン群で25%、プラセボ群で28%と有意差はなく、また、24時間での割合もトルバプタン群で50%、プラセボ群で47%と、差はみられませんでした。利尿薬の追加や血管拡張薬、強心薬の使用などのレスキューセラピーを必要とした割合は、トルバプタン群で21%、プラセボ群で18%となり、同等の結果となりました。体重減少と体液量の減少はトルバプタン群で有意に高かったものの、投与中に腎機能が悪化する傾向がみられました。入院中または退院後の臨床転帰に差はみられませんでした。

このことから、急性心不全に対するトルバプタンの投与は、体液量の減少、体重減少がみられるものの、24時間で症状が改善する患者さんの割合は変わらないことが示唆されました。

 

トルバプタンが急性心不全に有用であることを期待して行われた研究でしたが、体液量の減少はみられるものの、症状の改善や臨床転帰には有効性がみとめられなかったことを報告しています。しかし、今回の結果から一概に、急性心不全に対する有用性が低いとは言えず、今後も研究が重ねられていくことが望まれます。

 

 

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