じつは自衛隊にも歯科医師がいるのです 歯科医官について

はじめに


自衛隊に医師が勤務していることはよく知られていますが、実は陸上・海上・航空自衛隊にも歯科医師がいることはご存知でしょうか?

むかしの軍隊では、軍に配属された歯科医師を軍医歯科医とよんでいましたが、自衛隊では、医師を軍医とは呼ばず医官とよぶように、歯科医師を歯科医官とよんでいます。

今回は、歯科医官について紹介しようと思います。


写真はイメージです。 photo by photo AC

歯科医官になるためには

 

○歯科医官になるためには

自衛隊には、歯科医官を養成する学校はありません。歯科医官になりたいなら、まず一般大学の歯学部を卒業し、歯科医師になることが第一歩です。

そして、歯科幹部候補生、もしくは医科歯科幹部に志願します。応募ではなく志願というところが、自衛隊らしいですね。

どちらも志願の手続きは同じです。

①最寄りの地方協力本部に連絡します。

おそらくこの段階で、担当官が決まります。担当官は親身になっていろいろな相談にのってくれます。不安なこと、疑問なことにとても誠実に答えてくれます。

②担当官から志願票を受け取ります。

③志願票を記入し、担当官に提出します。

④担当官から関係書類を受け取ります。

⑤試験

⑤-1歯科幹部候補生の試験

試験は、1次試験と2次試験にわけられています。

1次試験は筆記試験で、2次試験は、小論文試験、口述試験、身体検査です。

⑤-2医科歯科幹部の試験

試験は、筆記試験(小論文)、口述試験、身体検査の3つです。小論文は、インフルエンザや抗菌薬の使い方などの医学全般が出題されます。


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○歯科幹部候補生

幹部候補生は、歯科に限られないんですね。ほかに一般と薬剤科があります。

歯科幹部候補生とはいいますが、歯科の幹部候補生として募集されます。

歯科の幹部候補生には年齢要件があり、30歳以上ですと志願することが出来ません。もちろん、歯科の大学を卒業しているという大前提があります。毎年1回しか募集が行なわれないため、多くても6回しか受験のチャンスがないわけです。

歯科幹部候補生に採用された後は、陸上・海上・航空自衛隊の幹部候補生学校にはいり、6週間の幹部自衛官としての教育を受けます。

この期間は外出はできません。他の候補生とともに集団生活を送りながら、基礎訓練を受けます。一般の幹部自衛官の基本教育は1年間ですので、6週間というと長いように思われますが、そんなことはありません。

 

○医科歯科幹部

医科歯科幹部は、すでに歯科医師免許をもち、一定の臨床経験を積んだ歯科医師が対象です。幹部候補生とは異なり、年齢制限はありません。その代わりというわけではありませんが、口腔外科学会や歯周病学会などの専門医や認定医資格があった方が望ましいとされています。

陸上・海上・航空の自衛隊がそれぞれ募集します。

年2回募集が行なわれますが、第1回目の選考で決まった場合は、第2回目の募集は行なわれませんし、第2回目の選考でも採用されないこともあります。自衛隊側が欲しいと思う人材が集まらなかったら、たとえ志願者が1名しかいなくても、その年は採用なしとなるわけです。

 

歯科医官の研修

 

歯科医官も、一般の歯科医師のように卒後研修を受けます。ただし、卒後研修とはよばれず歯科医官初任務実務研修といいます。自衛隊らしく硬い名前ですね。

研修は2年間で、陸上自衛隊では自衛隊中央病院、海上自衛隊絵は自衛隊横須賀病院、航空自衛隊は岐阜病院で行われます。


写真はイメージです。 photo by illust AC


2年の研修の間には、3ヶ月ずつ防衛医科大学病院の歯科口腔外科と麻酔科にもまわります。

これらすべてが終わった後に、部隊に配置されます。

 

歯科医官の階級


○歯科幹部候補生

歯科幹部候補生は、まず陸上・海上・航空自衛隊の曹長になります。

曹長とは下士官です。下士官でいるのはこの間だけです。幹部候補生学校を卒業したら、なんと一気に2等陸・海・空尉です。大学院を出たのあれば、さらに上の1等陸・海・空尉です。

その後は、順調に昇進できますが、それも多くは2等陸・海・空佐までです。残念ながら歯科医官の1等陸・海・空佐のポストはとても少ないのです。将官にいたっては、歯科医官の場合は、陸上自衛隊に陸将補のポストが1つあるだけです。

歯科医官にとっては厳しい現実です。

 

○医科歯科幹部

医科歯科幹部は、経験年数に応じて最初の階級が決まります。それまでのキャリアによっては、いきなり2等陸・海・空佐になることもあるようです。

それでも、やはり2等陸・海・空佐より上への昇進はとても難しいのが現実です。

 

歯科医官の仕事

 


写真はイメージです。 photo by illust AC


自衛隊の歯科医は、普段はどのような仕事をしているのでしょうか。

歯科医官は、全国の陸上・海上・航空自衛隊の病院や各部隊の駐屯地・基地の医務室に配属され、歯科医官は自衛隊員やその家族の健康診断や歯科診療をしています。また、上になると幕僚監部や司令部の衛生部門で、行政関係の仕事を任されるようになります。

もちろん、災害発生時には歯科医官も派遣されますし、海外での国際支援活動にも派遣される機会も増えてきました。

歯科医官も自衛官ですが、歯科医官が戦闘部隊を指揮することはありません。これは医官も同じで、基礎訓練の期間が短いことも影響しているのでしょうか。

 

○陸上自衛隊

レンジャーって聞いたことありますか?数週間にわたる厳しい訓練を耐え抜いた陸上自衛隊の中でも特に秀でた精鋭隊員です。

歯科医官もレンジャー訓練を受けることが出来、実際レンジャー資格のある歯科医官もいます。歯科治療もこなしながら、レンジャー資格を得たわけですから、並みの歯科医師とはわけがちがいますね。

 

○海上自衛隊

海上自衛隊といえば、護衛艦や潜水艦といった艦船部隊がイメージされると思いますが、実は歯科医官が艦船に配属されることはないのです。

遠洋航海や海外派遣などの限られたシーンで乗艦するだけで、ふだんは病院や基地の中で働いています。

 

○航空自衛隊

航空自衛隊といっても、飛行機の中で仕事をすることはありません。病院や基地の中で仕事をします。

変わったところでは、航空医学実験隊というところに入ることも出来ます。ここは飛行機に乗ったときに人間にどのような影響が現れるのかを研究しているところです。こういった機関があるところが、航空自衛隊の特徴ですね。

 

通修


つうしゅうと読みます。自衛隊の独特な制度です。自衛隊以外の施設で研究や研修をすることで、歯科医官には週に1日だけ認められています。

大学院に入って博士号をとったり、大学病院で技術を磨いたりしている歯科医官もいます。

 

パシフィックパートナーシップ


パシフィックパートナーシップは、アメリカ海軍が中心となって行なっているアジア太平洋の国々に対する支援活動のひとつです。数年前から自衛隊も参加しています。


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歯科医官も派遣され、他の参加各国の軍医歯科医とともに、歯科の立場からの医療支援を行ないます。

派遣期間が限られていることもあり、むし歯や歯周病の治療はあまり出来ません。ほとんどが抜歯となるそうです。

 

在日アメリカ軍三軍歯科学会(Tri-Service Dental Symposium)


歯科医官に独特な学会として、「在日アメリカ軍三軍歯科学会」があります。もちろん、 歯科医官しか参加できないわけではなく、歯科医師なら誰でも参加できます。

この学会、あまり知られてはいませんが、実に60回以上におよぶ開催歴を有する伝統のある学会なのです。

日本に駐留しているアメリカ軍が主催している学会ですが、遠いハワイやアメリカ本土からはるばる参加しているアメリカ人歯科医師も大勢います。

ここではアメリカの歯科医療に、自衛隊の歯科医官だけでなく、大学病院や開業歯科医なども、日本国内にいながら触れることが出来るので、貴重な学会といえますね。

 

まとめ


自衛隊には医師だけでなく歯科医師もいて、彼らを歯科医官とよんでいます。

歯科医官の勤務先は、自衛隊の病院、駐屯地や基地の医務室です。

歯科医官も自衛官ですので、基礎的な戦闘訓練を受けています。有事が起これば、他の自衛隊員と同じく歯科医官も出動します。そうでないときは、自衛隊員やその家族の歯科診療、健康管理、衛生管理などが主な仕事です。

歯科医官が、前線に出る日が来なければいいですね。

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