統合失調症の新機序薬 ブレクスピプラゾール(商品名;レキサルティ)

統合失調症は、脳内の情報伝達がうまく働かなくなることで思考や感情、行動をひとつにまとめる能力が長期にわたって低下する精神疾患です。10代後半から20代に発症することが多く、およそ100人に1人弱が罹患する決して珍しくない疾患です。

統合失調症とは

統合失調症は、大きく分けて陽性症状と陰性症状に分けられます。

陽性症状は、本来あるはずのないものがあらわれる症状で、幻覚や妄想が特徴的なものとしてあげられます。本人を批判する内容の声や監視しているような内容の幻聴が聞こえたり、だれかに見られている、悪口を言われているなどの妄想がよくみられます。

そのほか、だれかに支配されていると感じる自我意識の障害や、まとまりのない会話や行動になる思考障害、興奮したり奇妙な動きをとる行動異常などがみられることもあります。


写真はイメージです。 photo by illust-ac

陰性症状では、感情表現が乏しくなる、意欲の低下、思考の低下などの症状がみられます。陰性症状は、多くの場合、陽性症状に遅れて現れます。

そのほか、注意力の低下や理解力の低下などの認知機能障害、抑うつ・不安などの感情障害など、あらわれる症状は多岐にわたります。

発症原因は?

統合失調症が発症する原因は、いまだ明らかになっていませんが、遺伝や何らかの脳の機能異常、環境によるストレスなどさまざまな因子が重なり合うことで発症すると考えられています。

患者さんの脳内では、神経伝達物質であるドパミンの機能異常が起こっていると考えられており、そのことにより陽性症状や陰性症状が発現するといわれています。中脳辺縁系でドパミンが過剰となり陽性症状がでる一方で、中脳皮質系ではドパミン機能の低下がおこり陰性症状が発現すると考えられています。

また、中脳皮質系においてドパミンが低下することによりセロトニンが優位となり陰性症状があらわれることや、グルタミン酸の機能異常が病態に関与していることなども推測されています。


写真はイメージです。 photo by photo AC

統合失調症の薬物療法

統合失調症の病期は、急性期と慢性期(休息期、回復期)、維持期に分けられます。

急性期は、薬物療法が中心となり、慢性期には薬物療法に加えて、心理社会的療法などのリハビリテーションが行われます。症状が消失した後も、再発の予防のため継続的な服薬が必要となります。

薬物療法では、抗精神病薬と呼ばれる薬が中心となり、そのほか抗不安薬や抗うつ薬などの薬が使用される場合もあります。抗精神病薬は大きく、定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬に分けられます。

定型抗精神病薬は、ドパミンのみを抑制する作用があり、陽性症状に大きな効果をしめす薬です。しかし、陽性症状に顕著な改善がえられる一方で、ドパミン機能の低下している中脳皮質系にも作用するため、陰性症状を強めるなどの副作用や、脳内のほかの部位にも作用し、錐体外路症状(手足が震える、動作が鈍くなる、じっとしていられない等)や性機能異常などがあらわれることが多いとされています。

非定型抗精神病薬は、第二世代の抗精神病薬とも呼ばれ、ドパミンだけではなくセロトニンなど、そのほかの神経伝達物質への作用も合わせもっている薬です。

陽性症状だけではなく、陰性症状や認知機能障害にも効果をしめし、錐体外路症状などの発現も比較的少ないといわれています。非定型抗精神病薬には、ドパミンとセロトニンを抑制する作用のあるSDAや、ドパミン・セロトニン以外の受容体にも広く作用するMARTA、ドパミン神経が亢進していると抑制に働き、低下している部分では適度に活性化することでバランスをとるドパミン部分作動薬(DSS)があります。


写真はイメージです。 photo by photo AC

様々な作用をもつ抗精神病薬が臨床で使用されていますが、その中から患者さんにあった薬が選択され、病態に合わせて細かい用量調整や剤型選択がなされています。

新しい作用SDAMをもつ抗精神病薬

2018年1月、新たな機序の抗精神病薬として製造販売承認されたのが、ブレクスピプラゾール(商品名;レキサルティ錠1mg、2mg)です。「統合失調症」に適応をもち、用法・用量は「通常、成人にはブレクスピプラゾールとして1日1回1mgから投与を開始した後、4日以上の間隔をあけて増量し、1日1回2mgを経口投与する」となっています。

ドパミンD2受容体およびセロトニン5HT1A受容体には強く結合して部分作動薬として働き、セロトニン5HT2A受容体には拮抗薬として働くSerotonin-Dopamine Activity Modulator(SDAM)と呼ばれる作用機序を有しています。

臨床試験では、急性期統合失調症患者さんを対象に、ブレクスピプラゾールを6週間投与したところ、プラセボ群に比べてPANSS(陽性・陰性症状評価スケール)の変化量に有意差が認められ、症状の改善をしめしました。また、精神症状の改善は、52週にわたり維持されたことが報告されています。

国内臨床試験では、検査値の異常をふくむ副作用が40.3%に認められ、主な副作用として錐体外路症状のひとつであるアカシジア(5.7%)、高プロラクチン血症(4.0%)がみられました。外国における臨床試験では、主に頭痛や不眠がみとめられています。


写真はイメージです。 photo by pixabay

統合失調症の薬物治療では、患者さんにあった薬を見つけていくことが大切となります。今回、ブレクスピプラゾールが承認されたことにより、治療の選択肢が増え、患者さんの症状改善に貢献することが期待されています。

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました