二次進行型多発性硬化症にたいするsiponimodの有効性

多発性硬化症は、さまざまな神経症状をしめす慢性の神経疾患です。患者さんは、世界に約250万人いると推定されており、日本では1万3千人を超え、年々増加傾向にあるといわれています。

多発性硬化症とは

多発性硬化症は、脳や視神経、脊髄の機能に障害を引き起こす慢性的な神経疾患であり、多くの場合、再発と寛解を繰り返します。(詳しくはこちらを参照)

症状は、患者さんによって異なり、障害される部位によって歩行障害や感覚障害、視力の低下、記憶障害などさまざまな症状が発現します。

通常、情報伝達を行うために重要な神経細胞の軸索は、ミエリンで覆われており、このことにより情報をスムーズに伝えることができるようになっています。しかし、多発性硬化症では、ミエリンが何らかの原因で障害されるため(脱髄)、情報がうまく伝わらなくなり、さまざまな症状が引き起こされます。詳細な原因はいまだ明確にはなっていませんが、リンパ球が何らかのきっかけで、誤って攻撃してしまうことが一因と考えられています。


写真はイメージです。 photo by pixabay

多発性硬化症は、症状の経過のタイプによって、再発寛解型、二次進行型、一次進行型に分けられます。大多数をしめる再発寛解型では、再発と寛解を繰り返しながら慢性に経過しますが、二次進行型では、最初は再発と寛解を繰り返すものの、徐々に再発とは無関係に神経障害が進行していきます。はじめは再発寛解型と診断されても、約8割の患者さんが二次進行型に移行していくといわれています。一次進行型では、再発・寛解がみられず、初期から症状が進行していきます。

二次進行型多発性硬化症にたいするsiponimodの効果

二次進行型多発性硬化症は、神経機能が徐々に悪化し、患者さんの日常生活に大きな影響を及ぼします。そこで、現在、二次進行型多発性硬化症の治療薬として開発がすすめられているのが、「siponimod(BAF312)」です。

Siponimodは、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体の特定サブタイプの選択的調節剤であり、リンパ球にあるS1P1受容体に結合することにより、リンパ球が中枢神経系に移行するのを防ぎ、炎症を抑える作用を持つ薬です。また、中枢神経系細胞に発現するS1P受容体にも結合し、損傷をもたらす細胞の活性を調節することで、神経機能の喪失の抑制に働く可能性があると考えられています。

Siponimod versus placebo in secondary progressive multiple sclerosis (EXPAND): a double-blind, randomised, phase 3 study」では、siponimodの有効性と安全性について報告しています。

二次進行型多発性硬化症の患者さんを対象に、siponimod 2mgまたはプラセボを投与する群に分け、3カ月以上継続する身体的な障害進行が認められるまでの期間について検討しています。

その結果、3カ月以上継続する身体的な障害進行が認められた割合は、siponimod群で26%、プラセボ群で32%となり、siponimod投与により、身体的障害の進行リスクが21%低下しました。有害事象は、siponimod群で89%、プラセボ群で82%の患者さんにみられ、重篤な有害事象は、siponimod群で18%、プラセボ群で15%の患者さんにみとめられました。Siponimod群で多くみられた有害事象として、リンパ球減少症、トランスアミナーゼ濃度の上昇、徐脈および徐脈性不整脈の増加、黄斑浮腫、高血圧、帯状疱疹、痙攣が報告されています。


写真はイメージです。 photo by photo AC

今回の臨床試験から、siponimodにより二次進行型多発性硬化症患者さんの身体的障害の進行リスクが低下することが示唆されました。今後、多発性硬化症の治療に貢献することが期待されています。

 

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