繰り返してしまう万引き 自分の意思でやめることができない-クレプトマニア(窃盗症)とは

[万引きがやめられない?]

「万引き」といえば説明するまでもなくお店からお金を払わず商品を持ち去ること・・・刑法上では「窃盗罪」にあたります。

犯罪白書によると全窃盗件数は80万件超、その中で万引きは14.5%ですとかなりの件数になります。未発覚の件数はもっと多いことも想像できますよね。

 

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万引きをしてしまうきっかけはなんでしょうか。いくつか例をあげてみましょう。

・お金がないけど欲しいものだったから。

・食べるものを買えるお金がないので。

・転売して利益を得るために。

それぞれの万引きの目的がはっきりしていますよね。「利益のための窃盗」といえるでしょう。

利益のためではなく「買うお金は持っているけど」、「別に欲しいものでもないんだけど」といった一見すると目的がわからない万引きをしてしまう人もいます。「あの人が万引き!?」とびっくりするニュースを耳にしたことはないでしょうか。

目的がわからない万引きの目的はなんでしょう。それは「万引という行為」そのものが目的です。「クレプトマニア(窃盗症)」という精神疾患におちっている可能性があります。「窃盗のための窃盗」ともいわれます。

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ミニコラム 万引きの語源は

万引きの語源はいくつか説があります。「並べられている商品の間から盗む」=「間引く」を語源とする説が有力です。間引くに撥音「ん」が入り変化して「万引き」と呼ばれるようになったといわれています。「万」は当て字です。

[クレプトマニアは国際的に認識されている疾患です]

アメリカ精神医学会が作成しているDSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)にクレプトマニアの診断基準が記載されていています。WHOのICD-10(国際疾病分類第10版)にも記載されていて国際的に認識されている疾患です。

・個人的に用いるためや金銭的価値のためでもなく物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返してしまう。

・窃盗に及ぶ直前の気分の高まりがある。

・窃盗を犯すときの快感、満足、解放感などを感じる。

・盗みが怒りや報復のためでも妄想または幻覚に反応したものでもない。

・盗みを行為障害、躁病で躁状態にある、反社会的人格障害では説明できない。

DSM-5は判断基準の目安で絶対なものではありません。専門医による診断が必要です。

[クレプトマニア-自分の意思で抑えられない]

世の中にはアルコール依存、ギャンブル依存、ネット依存などいろいろな依存症がありますよね。クレプトマニアも依存性のある障害です。

一般的に依存症は自分の力でやめることがむずかしいことが知られています。そのなかでもクレプトマニアはとくにむずかしいといわれています。クレプトマニアについて少し詳しくみていきましょう。

-クレプトマニアの症状は-

とくに目的もなく盗りたいという感覚が衝動的におきてしまいます。緊張感が高まり落ち着きがなくなっていてもたってもいれなくなります。この衝動を抑えることができません。

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万引きを実行したときには強烈な達成感や満足感を覚えます。この感覚は長続きしません。そのため後悔の念や自己嫌悪感にさいなまされることになります。

盗ることが目的ではないために盗った物への執着心や関心はほとんどありません。お店を出てからすぐに捨てる、他の人にあげてしまう、自宅で放置する、盗ったものを戻す場合もあるようです。

クレプトマニアの特徴的なことは常習的に万引きを繰り返してしまうことです。万引きしては駄目だとわかっていても自分の意思で衝動を抑えることができません。

逮捕された場合には一概にはいえませんが最初は説諭や示談で済む場合もあります。結果的に繰り返すことで「起訴→罰金刑→再犯→執行猶予判決→再犯→実刑判決」という形になってしまいます。

なんど捕まっても試行猶予中でも自分の意思でやめられません。実刑判決によって刑期があけても繰り返してしまいます。

自分の意思をコントロールできない、自己嫌悪感にさいなまされる、犯罪行為につながっているため他人から理解を得ることがむずかしいなどクレプトマニアは本人にとって大変つらい障害といえます。

-クレプトマニアの原因はなに-

クレプトマニアの原因についてはっきりとした原因はわかっていません。さまざまな要因があるとされています。なんらかの要因から強いストレスや不安感によるひとつの自傷行為の形として窃盗へと結びつくともいわれています。要因として考えられているものをいくつかあげてみましょう。

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・いじめ、家庭内暴力などによるストレス。

・過食症や拒食症など摂食障害、買い物依存症。

※摂食障害との関係はとくに深いことがわかっています。摂食障害もクレプトマニアも衝動のコントロールができないことが関係しているともいわれています。

・うつ病、アルコール依存症との関連も疑われています。

・孤独感。高齢者の場合に多い要因だといわれています。

クレプトマニアは女性に多くみられます。高齢者に少なくないこともわかっています。女性に多いことから女性ホルモンの乱れについていわれていますがはっきりしたことはわかっていません。

女性に摂食障害が多いことや「お店に行く機会が多いこと=万引きしたいという衝動にさらされる機会が多いことにつながる」のも一因のひとつかもしれませんね。

[クレプトマニアではないかと思い当たる場合には]

クレプトマニアは万引きによる法的な刑罰を受けたからといってクレプトマニアが治ることはありません。治療が必ず必要になります。

一般的なクレプトマニアの治療は通院もしくは入院で行われます。入院による治療に重点をおく病院もあります。カンウンセリングを主体として認知行動療法や集団療法がおこなわれます。

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◇認知行動療法

自分が万引きをしてしまうプロセスや盗むことへの思考の歪みに気がつかせる、どうすれば万引きしないかといったことを考えさせるなど訓練して患者の行動を変えていこうというものです。

◇集団療法

同じクレプトマニアの患者が集まって自由に話をすることでお互いの悩みを共有や理解を得ることが目的です。議論などはせずに自分の心のなかを吐き出すような形で行われます。

クレプトマニアは1人で乗り越えることがむずかしく家族や周囲の人の助けを借りて乗り越えるということも必要です。家族に問題があるケースもあり家族へのカウンセリングを行う場合もあります。

ほかの依存症と同じようにクレプトマニアも長期間の治療が必要になります。しかし、治療を途中で中断してしまい再犯を犯してしまうことは珍しいことではなく課題となっています。

クレプトマニアには「KA(kleptomaniacs Anonymous:クレプトマニアクス・アノニマス-無名の窃盗症者たちの集い)」という自助グループがあります。

自助グループに参加することで新しい人間関係や習慣ができる、回復した方に接することで回復への自信の一助になることが期待されています。医療機関での治療と並行してもしくは治療終了後も自助グループに参加することは有効だといわれています。

窃盗行為ですので法的なことは避けて通れません。最近ではクレプトマニアに正しい知識をもって対応してくる弁護士事務所もあります。裁判所でもクレプトマニアへの理解が広まり治療を前提として試行猶予中でも再度の執行猶予となるケースや前科があっても不起訴になるケースのように「刑罰より治療」といった事例がみられるようになってきています。

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ご自身やご家族がクレプトマニアで悩んでいる方は少なからずいらっしゃると思います。まずは心療内科や精神科のお医者さんに相談してみてはいかがでしょうか。

クレプトマニアの専門病院は多くはありませんが積極的に治療を行っている病院もあります。お医者さんにいきなりは行きづらい方はクレプトマニアを積極的にサポートしている弁護士事務所に相談してみるのもいいでしょう。

 

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