人工知能を活用して尿から大腸がんを検出 大腸がんの早期発見につながるか?

日本におけるがんの死亡者数をみてみると大腸がんは、肺がんについて2位(女性1位、男性3位)で増加傾向にあります。

大腸がんは早期のうちに治療すると高い確率で根治が望めます。早期発見、早期治療がなによりも重要になります。

大腸がんを早期発見、早期治療を行うために、便潜血検査や血液検査による腫瘍マーカーなどの検査があります。

東京医科大学と慶応大学の共同研究グループは、2018年3月に従来の検査方法とは異なる検査方法として「尿の代謝物濃度を測定して人工知能(AI)で解析することで大腸がん患者を検出する方法を開発した」とスイスの科学誌「International Journalof Molecular Sciences Cancers」に発表しました。

[尿で大腸がんがわかるの]

研究グループは、早期発見を目的にわたしたちのからだの中の数百種類の代謝物を一斉に測定する技術である「メタボローム解析」を行うことでがん患者に特有の代謝物を検出することができないか研究をしてきました。

今回の研究では、がん患者、ポリープ患者、健常者から尿検体(合計242検体)を集めて「液体クロマトグラフィ/質量分析装置(LC/MS)」を使用して分離させた成分をイオン化させて尿中代謝物の測定を行いました。

この装置を用いることで、ほかの代謝物に影響されることなく個々の代謝物の分離が可能になります。

液体クロマトグラフィ/質量分析装置photo by wikimedia

その結果から、「がん患者では代謝物の一つであるポリアミン類が健常者やポリープを持つ患者に比べて濃度が高い」ことを突き止めました。ポリアミンは、細胞の中に存在する細胞分裂や細胞を正常な状態に保つ働きなどをする物質で20種類以上あります。

以前より、大腸がんの発症にはいくつかの遺伝子の変異が関わっていることが知られていました。この変異によってポリアミンの一種であるプトレシンという代謝物が活性化されてさまざまなポリアミン類へと代謝されます。

その中でも特にポリアミン類の尿中代謝産物のなかの「N1、N12-ジアセチルスペルミン」は、がん患者では尿中濃度が高くなることは知られていました。しかし、この物質による検査だけで大腸がんかどうか判断するのは十分なものとはいえませんでした。

※N1、N12-ジアセチルスペルミンは「肝細胞がん、大腸がん、乳がん、肺がん、前立腺がん、骨髄性白血病」などのがん細胞が増殖するに従って上昇することが報告されています。

今回の研究のよってN1、N12-ジアセチルスペルミン以外にも患者によって異なる濃度パターンを示す別のポリアミン類の分子が観測されることがわかりました。

[人口知能を利用して大腸がんの早期発見へ]

研究チームは観測された結果から、ポリアミンのパターンのいろいろな組み合わせを人工知能のアルゴリズムの中で高精度かつ汎用性が高い「Adtree」を改良して学習させました。

写真はイメージです。photo by photo-ac

学習させるにあたって大腸がんに対する高い精度を保つために以下のような点を考慮しています。

・尿の代謝物の量はいつも同じとは限りません。朝、昼、夕方など複数回採取することで基礎データにしました。

・ほかの良性疾患との特異性を高めるためにポリープ患者と健常者のデータも症例に含めました。

・高感度の測定法を活用することで複数の分子を人工知能によって高度な組み合わせを行わさせました。

これらの方法から研究チームは高い精度で大腸がんを識別することに成功、簡便な尿検査で大腸がんを早期発見する可能性を見い出しました。

研究グループは、今後の展開について「大規模な症例データでの精度検証の実施、高精度で簡便な測定方法のシステム開発などスピード感を持って実用化に向けた研究開発を進めていく」と述べています。

人工知能を用いた病気の診断や医療支援については、日本を含めて世界各国でさまざまな研究が行われていています。本格的に人工知能を使用した診断や医療支援が活用されていく日は近いかもしれませんね。

 

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