細菌を破壊する人工ウイルスが開発!? 薬剤耐性菌の対抗策として期待へ

わたしたちの身の回りにはさまざま種類の細菌が存在しています。これらの細菌のなかには病気を引き起こす細菌が数多く知られています。

この細菌を退治してくれるのが抗生物質ですよね。1928年にフレミングが青カビから見付けた「ペニシリン」が世界初の抗生物質で、以降さまざまな抗生物質が登場してきています。

近年、抗生物質について大きな問題となっているのが、抗生物質が効かない「薬剤耐性菌」です。

普通ならば抗生物質によって簡単に治療できたはずの病気が治せないというケースが増加しています。

よく耳にするのは黄色ブドウ球菌(MRSA)や緑膿菌ではないでしょうか。薬剤耐性をもつMRSAや緑膿菌に罹患してしまうと重症化することが知られています。

英国立物理学研究所(NPL)とユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究チームは、「細菌殺傷能力を持つ人工ウイルスの合成に成功した」と発表しました。この成功は薬剤耐性菌に対する新たな対抗策として期待されています。

[人工ウイルスってなんなの]

研究チームが開発した人工ウイルスは、大きさは非常に小さく20ナノメートル(0.00002ミリ)ほどでタンパク質の組織できています。

複数のアミノ酸を結合、合成させて本物のウイルスに似た正20面体の形状で中空構造になっています。

人工ウイルスは、細菌を認識すると非常に短時間で自分より大きい細菌の表面に付着して細菌の細胞膜に穴をあけて細胞を溶解させます。

細菌の構造photo by pixaboy

研究チームによると、「急激に細胞膜に穴を開けることで内容物が漏れ出すようになります。実験では細菌が死滅する様子がみられた」と述べています。細菌に対して人工ウイルスが攻撃性を持っていることが確認されています。

今回の人工ウイルスは、細胞膜に作用することから細胞全体を攻撃するという性質があります。通常の抗生物質は、標的となる細胞の内部まで入り込んでから作用するので作用機序が異なります。

このことから通常の抗生物質に比べて細菌が人工ウイルスに対する耐性を獲得できないことが考えられ、耐性菌が生まれにくいというアドバンテージを持っていることが人工ウイルスの利点としてあげられています。

[人工ウイルスに期待されることはなに]

人工ウイルスに期待されているのが、第一に薬剤耐性菌に対する処置方法の開発があげられます。

世界では、薬剤耐性菌に起因する死亡者数は年間70万人が死亡しているといわれています。

厚生労働省によると、「このままなんらかの対策がとれない場合」には2050年にがんの死亡者数を上回ると推測されていて効果的な治療法がないのが現状です。このような現状に一石を投じる可能性があるのが人工ウイルスです。

写真はイメージです。photo by pixaboy

さらに人工ウイルスは、ヒトの細胞には影響を及ぼさないとされています。ただし、本物のウイルスのように感染力や細胞内に進入する能力があり、必要な薬剤を細胞内に直接届けることや遺伝子の操作を細胞内で行うなどといったさまざまなことに応用できる可能性を持っていると考えられています。

今回の研究の成果を、研究チームの英国立物理学研究所のMax Ryadnov博士は以下のように述べています。

「今回の成果は医療分野などにおける人工バイオロジー分野の潜在力を実現するためのツールボックスとして利用することが可能です。この研究は早急な対策が必要な感染症に対する代替治療を実現する上での創造性のもった解決手段となるでしょう」

人工ウイルスが臨床に用いられるのは、さらに研究が進められて臨床実験が重ねられてからになるでしょう。

薬剤耐性菌については医学の世界ではいろいろなアプローチから研究がされています。

WHOは、薬剤耐性菌に対するアクション・プランを発表しており、各加盟国も薬剤耐性菌への対策を進めています。薬剤耐性菌への有効な治療手段の確立が待たれるところですね。

 

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