高齢者の潜在性甲状腺機能低下症に甲状腺ホルモンは効かない?


写真はイメージです。(C)Hipohige.com

甲状腺疾患には、バセドウ病や甲状腺機能低下症、甲状腺がんなどいくつかの種類があります。

自覚症状が出る場合や血液検査により発見される場合があり、日本人の20人に1人は何かしらの甲状腺疾患をもつと言われるほど身近な疾患です。

今回は甲状腺疾患の中でも甲状腺機能低下症にスポットをあてていきます。

甲状腺と甲状腺ホルモン

まず甲状腺とは甲状腺ホルモンを生産し血液中に分泌する組織です。

甲状腺ホルモンは体温の調節や新陣代謝の促進、脳の活性化など様々な働きに関与するホルモンであり、健康な生活を送るうえではかかせません。通常であれば、脳から分泌される甲状腺刺激ホルモンにより適度な量を保っています。

しかし、甲状腺機能低下症の患者さんでは何らかの原因により甲状腺がうまく働かず、甲状腺ホルモンが不足した状態となります。甲状腺ホルモンの不足により新陣代謝の低下や臓器の働きの低下が起こるため、疲れやすい、寒がり、便秘など様々な症状が発現します。甲状腺機能低下症は女性に多くみられ、橋本病や加齢などにより発症しやすくなると言われています。

診断を確定するためには血液検査を行い、甲状腺ホルモン濃度と甲状腺刺激ホルモン濃度の値により判断します。

甲状腺機能低下症の治療は内服薬にて甲状腺ホルモンの補充を行うのが一般的です。

潜在性甲状腺機能低下症

しかし、甲状腺機能低下症の患者さんの中には、自覚症状がなく甲状腺ホルモンの低下も軽い潜在性甲状腺機能低下症の方もいます。潜在性の場合、甲状腺ホルモンは軽度の低下ですが甲状腺刺激ホルモンは高くなる傾向にあります。

潜在性甲状腺機能低下症の治療については通常の甲状腺機能低下症と同様に治療を行うべきという見解がある一方で、いくつかの条件に該当しなければ治療の必要はないという意見もあり、いまだ議論が続いています。

そこで、2017年4月に発表された論文「Thyroid Hormone Therapy for Older Adults with Subclinical Hypothyroidism」では、潜在性甲状腺機能低下症の高齢者にとって甲状腺ホルモン補充療法は有用となるのか解析を行っています。

潜在性甲状腺機能低下症に甲状腺ホルモンは効かない?

65歳以上の潜在性甲状腺機能低下症患者を対象に、レボチロキシン(甲状腺ホルモン製剤)またはプラセボ服用群に分け、投与開始から1年後の症状スコア、倦怠感スコアを測定しています。

投薬前の平均甲状腺刺激ホルモン濃度は6.40±2.01mIU/Lでしたが、投薬開始から1年後の甲状腺刺激ホルモン濃度はプラセボ投与群で5.48mIU、レボチロキシン投与群では3.63mIUに低下しました。しかし症状スコア、倦怠感スコアともにレボチロキシン服用群とプラセボ服用群に有意な差はみられない結果となりました。

このことから潜在性甲状腺機能低下症を患う高齢者に対して甲状腺ホルモン補充療法を行うことは、明らかな有用性はないことが示唆されました。

今後さらなる研究により、潜在性甲状腺機能低下症の治療に対する見解が統一されることが望まれます。

参照:NEJM

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