アンジオテンシンⅡが治療困難な血管拡張性ショックの有効な治療薬に


写真はイメージです。photo by 00Ucci

ショックという言葉はよく耳にしますが、医療業界でいうショックについては詳しく知らない方が多いのではないでしょうか。ショック症状は生命の危機ともいえる状態であり、早急で的確な対応が不可欠です。

ショックとは血液循環がうまくいかない状態

ショックとは何らかの原因により全身の臓器への血液循環がうまくいかなくなり、突然、いくつもの臓器がうまく働かなくなった状態です。ショックによって、血圧低下や意識障害、顔面蒼白などの症状があらわれます。

ショックは大きく分けて、心原性ショック、出血性ショック、神経原性ショック、敗血症性ショック、アナフィラキシーショックに分けられ、それぞれ発症する機序が異なります。

心原性ショックと出血性ショックは末梢の血管が収縮し手足が冷たくなることからコールドショックと言われます。コールドショックの場合、ショックにより心拍出量が低下することから血圧低下が起き、臓器不全へとつながります。

一方、他の3つのショックでは、末梢血管の拡張がみられ、手足が温かくなります。このことからウォームショックと呼ばれています。ウォームショックでは、神経や生理活性物質により血管の拡張が起こることが特徴であり、このことにより血圧低下を引き起こします。

処置が遅れると急速に死にいたる場合が多いため、ショックが起こった時には迅速な対応が必要となります。ショック時の治療にはいくつかの薬が使用されていますが、血圧低下を改善するために使用されるのが昇圧剤です。現在、日本ではカテコールアミンやバソプレシンが使用されています。血圧を上げて、臓器への血液の灌流が正常に行われるようにすることでショック状態を改善します。

ショックに対する治療 アンジオテンシンⅡの使用は有効

既存の処置により、ショック状態の改善がみられる患者さんもいますが、中には高用量の昇圧剤を使用しているにも関わらず、血圧が十分に改善しない患者さんもいらっしゃいます。

このような患者さんに対する治療は限られていて、低血圧症を呈する重度の血管拡張性ショックの患者さんでは30日の全原因死亡率が50%を超えると言われています。そのため、新しい治療法が望まれています。

2017年5月に発表された論文「Angiotensin II for the Treatment of Vasodilatory Shock」ではアンジオテンシンⅡ製剤が血管拡張性ショックに与える影響について報告しています。血圧の調整にはレニンアンジオテンシン系が関わっていることが知られていて、アンジオテンシンⅡは血圧を上昇させる生理活性物質です。

今回の論文では、ノルアドレナリンやその他の昇圧剤を投与しているにも関わらず十分な改善がみられない患者を対象に、既存の昇圧薬に加えてアンジオテンシンⅡまたはプラセボを投与し、症状の変化を解析しています。

その結果、投与3時間後の動脈圧はアンジオテンシンⅡ投与群において有意な上昇がみられました。また、アンジオテンシンⅡ投与群では併用している昇圧薬の投与量を減少させる結果が得られました。48時間後のSOFAスコア(臓器障害の程度をあらわす指標)をみると、アンジオテンシンⅡ投与群で心血管SOFAスコアの改善がみられました。有害事象はアンジオテンシンⅡ投与群で60.7%、プラセボ投与群で67.1%の患者さんにみられました。

今回の結果から、アンジオテンシンⅡが既存の治療では効果が不十分だった血管拡張性ショックの患者さんに有効な治療薬となることが示唆されました。

参照:NEJM

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