医療の進歩により治る病気は増えてきていますが、原因が詳しく解明されておらず、治療法も確立していない疾患はまだまだあります。アイザックス症候群もそのひとつです。患者数はとても少ない疾患ですが、発症すると完全に治ることは少なく、原因の解明と新しい治療法の確立が望まれています。
アイザックス症候群とVGKCのかかわり
アイザックス症候群は、手足や胴体に筋肉のけいれんや筋硬直、筋のピクつきなどの症状がみられる疾患です。疼痛やしびれを感じることもあり、日常生活に支障がでる場合もあります。また、汗が多い、皮膚の色が変化する、体温が高いなどの自律神経症状がみられることもあります。
原因は詳しく解明されていませんが、一部の症例に胸腺腫が関わっていることが報告されています。また、一部の患者さんで神経の興奮を鎮める役割をもつ電位依存性カリウムチャネル(VGKC)に対する自己抗体が検出されることから、この抗体によりVGKCの働きが障害され症状が出るのではと考えられています。
根本的な治療はありませんが、神経の過剰な興奮を抑える抗てんかん薬などが対症療法として使用されます。抗VGKC抗体陽性で日常生活に支障が出ているような患者さんには、血漿交換による抗体の除去や免疫療法が行われる場合があります。また、リンパ腫治療に使用される抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブの投与がアイザックス症候群に有効となることも報告されています。
しかしながら、原因解明や治療法はいまだ十分なものではありません。
video by Justin Kincheloe
アイザックス症候群で抗CASPR抗体を検出
2017年4月に発表された論文「Isaacs syndrome with CASPR2 antibody: A series of three cases.」では抗CASPR2抗体が検出されたアイザックス症候群について報告しています。
VGKCは様々な分子と複合体を作っていることが知られており、疾患ごとに自己抗体が標的とする分子が異なることが報告されています。その中で抗CASPR2抗体はアイザックス症候群に関わるとみられていました。
今回の論文では3人のアイザックス症候群患者さんで抗CASPR2抗体が検出されたことを報告しています。3例のうち1例は浸潤性胸腺腫に罹患していました。抗CASPR2抗体陽性患者さんに対してステロイドや血漿交換、リツキシマブ投与による治療は有効でしたが、十分な改善とはなりませんでした。2人の患者さんでは治療の有効性と並行して、抗CASPR2抗体の力価低下がみられたことを報告しています。
今後さらなる原因究明と個々人に合った治療法の確立が期待されています。
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