C型肝炎に感染した腎臓の移植ーあらたな腎移植の試み

末期腎不全の治療法として腎移植があり、現在たくさんの患者さんが治療を待っています。しかし、腎移植は提供者が必要であり、限られた件数しか実施できないのが現実です。そのため、今よりも多くの腎移植を行うために研究が重ねられています。

腎臓と尿毒症


写真は腎臓です。photo by medicalgraphics.de

腎臓はいくつかの役割を担っています。まずひとつめは、尿をつくることです。腎臓は血液をろ過し、老廃物を尿として体外へ排泄することで、体内に老廃物や毒素が溜まるのを防いでいます。また、身体に必要なものは再吸収し、体液量やイオンバランスを一定に保つ働きもしています。

その他、血圧の調節や造血を促す働き、丈夫な骨をつくるために必要なビタミンDを活性化する等、健康に過ごすために重要な働きをしている臓器です。

腎臓が上手く働かなくなると様々な症状が発現します。水分やイオンバランス、血圧の調節ができなくるため、むくみや血圧が高くなる症状があらわれます。また、血液をつくる過程にも影響を及ぼすため貧血症状がみられる場合もあります。

腎臓の働きがさらに悪くなり、末期腎不全になると、老廃物や毒素がうまく排泄されず、体内に溜まる尿毒症が発現します。尿毒症では意識障害や食欲不振、倦怠感などさまざまな症状がみられ、命の危険にさらされる場合もあります。

尿毒症を防ぐためには、治療が必要となります。治療は、薬物療法、人工透析療法、腎移植が選択されます。人工透析は、血液透析と腹膜透析があり、機械や透析液などを用いて老廃物や不要な水分を取り除き、血液をきれいにする対症療法です。現在、日本では血液透析が多く行われています。

腎移植とその問題点

腎移植の画像です。Transplanted kidney:移植した腎臓
photo by WIKIMEDIA COMMONS

腎移植は、上手く働かなくなった自分の腎臓を取り出し、健康な腎臓と取り換える根治療法です。健康体に近い状態となるため、腎不全治療の中で圧倒的に優れていると言われています。

しかし、拒絶反応や感染症などのリスクや腎不全患者さんの身体状態によっては、移植を受けられないことがあるなど様々な問題もあります。

腎臓提供者の数が、腎移植を希望する患者さんの数に比べて圧倒的に少ないことも難点のひとつです。日本では、腎移植の件数は年間2000件弱と報告されていて、希望しても実際に受けられるまで、長い期間待たなければいけないのが現状です。

感染腎移植ー新たな腎移植の方法


写真はイメージです。 photo by scotth23

2017年6月に、NEJMで発表された論文「Trial of Transplantation of HCV-Infected Kidneys into Uninfected Recipients」では、C型肝炎ウィルス感染(HCV)に感染した患者さんの腎臓をHCV陰性の末期腎不全患者に移植する試みについて報告しています。

移植する腎臓は、HCV患者さんの中でも抗ウィルス薬elbasvir–grazoprevir(日本では2016年9月にエルバスビル、グラゾプレビルとしてそれぞれ承認)の使用が承認されているHCV遺伝子1型感染者のみに限定しています。

レシピエントには数種類の免疫抑制剤を投与し、術後3日後にHCVウィルス検査を行い、結果が陽性となった時点でelbasvir–grazoprevirの投与を開始しています。治療は12週間にわたって行われました。

10人の患者さんが、今回の腎移植を受け、9名でHCV遺伝子1a型が検出されましたが、12週間にわたる治療によりHCVの治癒がみとめられました。

移植後6カ月間の血清クレアチニン値の中央値は、1.1mg/dl、腎臓の機能をあらわす推定糸球体ろ過率は、62.8ml/min/1.73m3となりました。これは、腎移植後に十分な腎臓の機能が保たれたことを意味します。

このことから、HCV遺伝子1型に感染した腎臓をHCV陰性レシピエントに移植した後に、抗ウィルス薬を投与することで、HCVの治癒は可能であり、感染腎でも良好な移植が可能になるのではないかと考えられます。

以前から、さまざまな腎臓での移植が可能ではないかと研究が、行われてきています。日本でも病気腎移植がおこなわれ話題になりました。今後も研究が進み、末期腎不全治療の発展に寄与することが期待されます。

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