HIF stabilizerー新たな腎性貧血の治療薬 臨床応用へちゃくちゃくと

現在、日本における慢性腎臓病の総患者数は、30万人弱に及んでいます。慢性腎不全ではさまざまな症状がみられますが、腎性貧血もそのひとつです。立ちくらみや倦怠感などを生じQOLの低下につながることから、早期の治療が不可欠です。

腎臓と腎性貧血

腎臓はいくつかの役割を担っており、エリスロポエチンを分泌し造血反応を刺激することもそのひとつです。分泌されたエリスロポエチンは、骨髄に働きかけ赤血球の生成を促します。


写真は腎臓です。photo by medicalgraphics.de

腎性貧血では、腎臓でのエリスロポエチン生成が低下するため、赤血球が十分に作られず貧血症状を呈します。貧血は慢性腎不全の進行要因であるため、腎性貧血がみられた場合には、積極的に治療することが必要となります。

腎性貧血の治療には主に赤血球造血刺激因子製剤(ESA)が用いられます。ESAはエリスロポエチン受容体に作用し、赤血球造血刺激を行う薬剤の総称であり、現在、数種類のESAが臨床で使用されています。また、ESA投与時には鉄欠乏となりやすいため、鉄剤の服用も合わせて行われます。

患者さんひとりひとりに合った目標を設定し、治療が行われます。

ESA抵抗性とHIF stabilizer

腎性貧血を改善するESAですが、時にESA抵抗性が発現することがあり問題となっています。

ESA抵抗性は、鉄欠乏状態や感染症や慢性的な炎症などさまざまな要因から起こることが知られています。感染症や慢性炎症では、鉄の取り込みを抑制する働きをもつヘプシジンという物質が上昇するといわれていて、ヘプシジンが上昇することでESA抵抗性に関わっていると言われています。

ESA抵抗性の腎性貧血に対する治療法はいまだ確立しておらず、効果的な治療法の開発が望まれています。そのような状況のなか、注目を集めているのがHIF stabilizerです。


HIF-1Aの構造。 photo by Wikipedia

低酸素誘導因子(HIF)は身体の低酸素に反応し、様々な遺伝子の発現を介して、血管新生や造血を促すことが知られています。エリスロポエチンもHIFによって制御されています。

そのため、HIFを介してエリスロポエチンの生成をうながし、血をつくる能力をあげる薬が、貧血に効果を発揮するのではないかと考え、HIF stabilizer製剤が開発されました。

この薬剤はHIFの分解酵素を阻害することで、HIFの分解を防ぎ、エリスロポエチンによる造血反応を促すのではないかと考えられています。

血がをつくる能力があがると、血を作る材料の鉄の需要が高まり、様々な遺伝子を発現することが知られています。その際にもHIFが関与しているのではないかと報告されています。

こういった研究からHIF stabilizerは鉄の有効的な利用に有用で、造血反応をさらに亢進する効果もあると考えられています。

HIF stabilizerの臨床応用


写真はイメージです。 photo by vimeo

現在、いくつかのHIF stabilizerの臨床試験が進んでいて、次々と有用性が確認されています。ESAは注射による投与でしたが、HIF stabilizerは経口投与も可能になっており、身体への負担が軽減されることも利点のひとつです。

腎性貧血だけではなく、癌性貧血や癌治療による貧血への効果も期待されています。

ただ、新規腎性貧血治療薬として期待を集めるHIF stabilizerですが、HIFにより制御される遺伝子は広範にわたることから長期使用の安全性が不明確であるなど課題はいくつか残されています。

今後研究が進み、安全で効果的な治療が提供されることが望まれます。

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