長期的に質の高い人工透析を行うために-バスキュラーアクセス不全とVAIVT

[腎臓の働き]

腎臓について、私たちは、普段、意識することがないと思いますが、私たちとって大変重要な働きをしています。

腎臓の機能は、単に、「尿を作る」だけではありません。腎臓には血液が流れこんでおり、その血液を濾過し、身体に必要なものを体内に戻す機能、体内の血液などのバランスを調整する機能、身体に必要なホルモンの産出を行う機能があります。

・身体に不必要な水分、塩分、老廃物を体外に排出します。

・ナトリウム、カリウムなどのイオンバランス(神経の伝達、筋肉の収縮に影響します)を調節しています。

・塩分と水分の排出量をコントロールして血圧を維持します。また、血圧を維持するホルモンを作って血圧を調整します。腎臓と血圧は密接に関係しています。

・腎臓で作られるホルモンが、骨髄の中にある細胞を刺激して、血液(赤血球)が作らせます。

・カルシウムを体内に吸収させる働きがある活性型ビタミンDを産出し、骨を丈夫にします。

このように重要な働きをしている腎臓ですが、近年、腎臓の機能が低下する慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)が増えています。

[慢性腎臓病と腎不全]


写真はイメージです。 photo by GerDukes

現在、日本国内には、慢性腎臓病患者さんは1300万人以上いるとされ、腎機能がほぼ正常に機能しなくなってしまうと「末期腎不全」という状態になります。

慢性腎臓病は、腎臓疾患、糖尿病や高血圧などの生活習慣病、先天性の病気などが原因となります。また、慢性腎臓病の患者さんは、動脈硬化が進み、心筋梗塞、脳梗塞など命にかかわる病気の発症のリスクが高くなります。

腎臓の機能が低下すると、「タンパク尿、血尿、夜間頻尿、むくみ、疲労感、めまい、息切れ、悪心、嘔吐、頭痛、貧血、高血圧」などのさまざまな症状があらわれ、ひどくなると、尿毒症になり、命に関わります。

末期腎不全になると、体内から老廃物を除去できなくなり、命にかかわりますので、腎臓の機能をおぎなう人工透析か腎移植をしなくてはなりません。

しかし、日本においては、臓器移植は立ち遅れています。腎移植を受けられるのは腎不全患者さんの中でも年間約1%です。そのため、人工透析が選択肢となります。

[人工透析とは]

人工透析とは、自分の腎臓の代わりに、機械などを使用して、血液の水分の調整、老廃物の除去を行う治療のことです。

人工透析には、以下の2つの方法があります。

血液透析

・血管と透析機器を2本のチューブでつなぎ、ポンプを使って血液を体外におくり、「ダイアライザー」というフィルターをとおして、老廃物、余分な水分を取り除き、きれいになった血液を再び体内に戻します。

・週3回、1回約4~5時間医療従事者のもとでおこないます。

腹膜透析

・お腹の中と外をつなぐ専用の管をとおして透析液を注入し、一定時間透析液を入れたままにします。腹膜の細い血管から、じょじょに老廃物や余分な水分が、透析液へ移動します。一定の時間がたってから、透析液を体外に排出して、血液をきれいにします。

・1日4回または1日1回就寝中に機械を用いて行う方法があります。通院は月に1~2回程度で、自宅や職場で行うことが可能です。拘束時間は少なく、自分自身で管理します。

・透析開始後、7~8年以内に腹膜が固くなってしまう「被嚢性腹膜硬化症」のために腹膜機能が低下し、血液透析への移行が必要になります。

どちらの透析方法を選択するかは、患者さんのライフスタイルに依存します。現在国内にいる約32万人にいる透析患者さんのうち、血液透析が97%、腹膜透析が3%です。

それでは、人工透析で多く使用されている血液透析についてみていきましょう。

[血液透析とバスキュラーアクセス]

血液透析を行うためには、体内の老廃物を出すのには1分間に200mL以上の血液を体外に送り出す必要があります。とても、普通の血管では処理ができません。

そのため、まず、透析を十分に安定して行うために特別な血管の出入り口を作る必要があります。この出入り口を「バスキュラーアクセス(VA-Vascular Access)」といいます。

Vein:静脈 Artery:動脈 Fistula:瘻孔
dialysis machine :透析機械

バスキュラーアクセスには複数の種類がありますが、バスキュラーアクセスの90%は「自己血管内シャント(略して、内シャントもしくはシャント)」と言われるものです。

一般的に自己血管内シャントは、透析療法を始める1~2ヵ月前に作ります。約1時間の手術を行い、前腕の動脈と静脈を繋ぎ合わせ、太い血管を作ります。

動脈と静脈を繋ぎ合わせることで、静脈の中に勢いの良い血流が流れ込み、透析に必要な血液量を確保します。

Dialysis, connection of a patient with an arteriovenous fistula

バスキュラーアクセスに針を刺し血液を体の外に取り出し、ダイアライザーを通して余分な水分や老廃物を器械で取り除き、血液を戻します。

[バスキュラーアクセス不全]

バスキュラーアクセスは使用を繰り返していくうちに、バスキュラーアクセスの機能が低下してしまう「バスキュラーアクセス不全」と言われる問題がでてくる場合があります。いくつかの原因がありますが、多い原因が血管の狭窄(狭くなる)や閉塞(ふさがる)です。

血管の狭窄や閉塞があると、血液透析療法自体の十分な治療効率が望めなくなり、患者さんにとって大きな問題になります。

患者さんの状態や年齢に左右され、幅がありますが、発生率は、5年で20~50%と言われています(高齢者、糖尿病患者での発生率が高いです)。

血管の狭窄や閉塞については、従来は、外科的な手術でバスキュラーアクセスを再建してきましたが、経皮的バスキュラーアクセス拡張術(VAIVT-Vascular Access Intervention Therapy)という術式が、ガイドラインにも示され、今では広く行われています。

[VAIVTとは]

VAIVTは外科的な手術とくらべて身体への負担が少なく、繰り返して治療することも可能です。VAIVTは、バスキュラーアクセスを維持し、円滑な透析を継続していくことが目的です。


写真はイメージです。 photo by WIKIMEDIACOMMONS

VAIVTは局所麻酔をした上で、「シース(ワイヤーなどの機器を出し入れする管)」を通して、血管内の狭窄もしくは閉鎖部分をバルーン(風船)で膨らませ、血管を拡張する手術です。手術時間は30分~1時間で、通常は入院しておこないます。

閉塞している場合には、VAIVT実施前に血栓を溶かす薬を閉塞部位に注入し血管をマッサージするか血栓除去用のバルーンで血栓を掻き出し、血流が再開してからVAIVTを実施します。

血管の状態を見ながら行いますので、「放射線透視下で造影剤を使用する方法」、「超音波を使用して血管をみながら行う方法」のいずれかの方法もしくは併用します。

血管が高度に狭窄していたり、著しく蛇行している場合には、VAIVTをおこなうためのワイヤーが通らないことがあります。その場合には、合併所のリスクを考慮して、外科的な手術に切り替えます。

[VAIVTの合併症]

VAIVT は「バスキュラーアクセス不全」の治療において広く用いられていますが、以下のような合併症が発生する場合があります。

○出血、血腫

出血は止血処置、血腫ができた場合には、経過観察をして自然に吸収するのを待ちます。

○血管損傷

通常は、圧迫して止血します。出血が収まらない場合には、狭窄部分にステント(冠動脈の手術などで使用されるもので、血管をワイヤー状のもので拡張させるための道具)で留め置き、外科的手術により止血します。

○急性閉塞

手術中に血栓ができ、バスキュラーアクセスに閉塞を起こすことがあります。予防する為に、血栓を作るのを予防する薬を使用しますが、投与することで、他の病気に影響を及ぼす場合には使用できないこともあります。

○感染症

感染症をひき起こした場合には、抗生物質による治療を行います。

○再狭窄

手術後に再狭窄が見られることがあります。現在、保険診療でのVAIVTの治療は3か月に1回とされています。再狭窄が起きた場合は。以下のいずれかの方法で対応します。

・外科的再建手術に切り替える。
・再度、VAIVTを試みる。
・刃がついたバルーンで、狭窄部に切り込みを入れ拡張する。
・狭窄部分にステントの留め置きを行う。

VAIVTの合併症の発生率は2%~10%程度です。術中の合併症で多くみられるのが血管損傷です。ひどい血管損傷は0.1%程度と言われていて、比較的安全な術式と言えます。

術後の再狭窄については、比較的多く見られます。頻繁に繰り返す場合には、外科的再建手術を行います。

[VAIVTの重要性]


写真はイメージです。 photo by flickr

血液透析は、腎不全の患者さんにとって、命綱でもあり生命線です。日本において、VAIVTの最初の報告は1984年まで遡ります。その後に、VAIVTの手技の確立などが進みや有効性が確認され、1990年代から普及し始め、今では広く行われるようになりました。

VAIVTという浸潤の少ない方法で、バスキュラーアクセス不全への対応が出来るということは、バスキュラーアクセスの機能、透析生活の質を長期的に維持していくにあたって、大変重要なことです。

今後も、VAIVTが血液透析において、重要な位置を占めていくことでしょう。

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