重症の精神障害に対する治療法 電気けいれん療法の有用性

精神障害は、正しく認識されないことが多く、昔から偏見や差別的な目で見られこともある病気でした。現在は、医療が進歩し、原因の解明や治療法の確立により症状が改善する方も増えてきましたが、いまだに重い精神障害により悩まされているかたも多く、効果的な治療法が望まれています。

精神障害と電気けいれん療法

精神障害は脳の器質的変化や機能障害により、精神・身体症状や行動の変化がみられる状態のことをさします。うつ病や統合失調症、認知症、依存症など多くの病気が含まれます。

現在では脳内での発症メカニズムが解明されつつある疾患が多く、それに伴い新しい治療薬が次々と誕生しています。

しかし、薬が誕生する以前は、原因がわからず、さまざまな治療法が試されていました。例えば、統合失調症ではクロルプロマジンが開発されるまでは薬が存在せず、インスリンやマラリアを使って患者さんをショック状態にすることで症状を改善する治療法などたくさんの治療法が試されていました。


写真はイメージです。 photo by Tumisu

効果的な治療法が見つからないまま年月が過ぎましたが、研究を重ね、1930年代ついに効果的な療法が開発されました。それが現在でも使用されている電気けいれん療法です。

その後、電気けいれん療法は統合失調症だけではなく、うつ病や躁うつ病などにも効果がみとめられ、主な治療法として使用されてきました。

薬の開発や社会的な問題から一旦は使用が減ったものの、改良が重ねられ、現在でも重症の統合失調症やうつ病、躁うつ病など幅広い精神障害に用いられています。

電気けいれん療法とは

電気けいれん療法は、こめかみ部分に電極をあて、脳に電流を流すことで人為的にけいれんを誘発する治療法です。

電気けいれん療法がどのように作用するかについてはいまだわかっていませんが、電流により脳の神経細胞が刺激されることでさまざまな神経伝達物質が放出され、脳内の不具合を改善すると考えられています。


写真は電気けいれん療法。 photo by WIKIMEDIACOMMONS

薬で十分な効果が得られない、または副作用などで服用できない場合の重症精神障害や飲食を拒否し、命の危険にさらされている場合などに適応となります。

電気けいれん療法では、始める前に血液検査や心電図などいくつかの検査をしたのち、麻酔をかけ治療を行います。筋のけいれんを起こさせないようにするため、筋弛緩薬を用いることもあります。通常、一定期間をあけながら4~5回程度行うと十分な改善がみられるといわれています。

電気けいれん療法の効果

このように重症の精神疾患に効果がみとめられている電気けいれん療法ですが、再入院のリスクに与える影響についてはあまり報告されていませんでした。そこで「Association of Electroconvulsive Therapy With Psychiatric Readmissions in US Hospitals」では電気けいれん療法が施行後30日間の再入院のリスクにおよぼす影響について報告しています。また、合わせて年齢、性別、民族などの項目ごとの影響の違いについても解析しています。

対象となった重度の情動障害をもつ入院患者さん162,691人のうち電気けいれん療法が行われた患者さんは2,486人であり、電気けいれん療法施行群と非施行群との退院後30日間以内の再入院の割合について比較しています。

その結果、非施行群では12.3%の患者さんが30日以内に再入院したのに対し、施行群では6.6%に抑えられました。さらに詳しくみると男性でより再入院リスクが低下していました。また、うつ病よりも躁うつ病、統合失調症患者さんで再入院のリスクがより低下する結果が得られました。

このことから、電気けいれん療法は短期的な再入院のリスクを低下させることが示唆されました。

電気けいれん療法の今後

医療の進歩により、通常と同じように生活を送れる精神障害患者さんも増えてきていますが、症状が重く、入退院を繰り返されている患者さんもいまだ少なくありません。

今回の論文により、電気けいれん療法が再入院のリスクを低下させることが報告され、電気けいれん療法の有用性がしめされました。今後も研究が進み、より効果的で安全性の高い治療法が確立されることが期待されます。

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