■はじめに
ヒトの永久歯は、上下顎あわせて前歯で12本、奥歯で30本(親知らずを含めなければ26本)あります。
永久歯は乳歯と異なり、一度生えてしまえば、二度とはえてくることはありません。ですので、むし歯や歯周病、外傷などで失ってしまった場合は、何らかの方法で噛めるように歯を補わなければなりません。
写真はイメージです。 photo by WIKIMEDIACOMMONS
この歯を補う治療法のことを補綴治療(ほてつちりょう)といいます。
現在、日本国内で受けることが出来る最新の補綴治療にインプラント治療があります。
■歯が抜けたままの状態でいると・・・
たとえば1本抜けただけだと、噛み合わせにそれほどの悪影響を感じることはありません。実際、残された歯で十分噛めます。しかし、長期的にみるとその影響がじわりじわりと現れてきます。
まず、隣の歯が倒れ込んできます。倒れ込むことにより、他の歯と歯の隙間の形が崩れていきます。すると、食べ物が入りやすくなったり、歯茎が腫れたりしやすくなります。
そして、咬み合わせている歯が抜けたところに向かって伸びてきます。
こうして歯並び全体が歪んできます。
咬み合わせたときの力を残された歯で負担しますので、残された歯にかかる負担が少しずつ増えていきます。むし歯や歯周病などで弱っている歯があると、その歯が保たなくなる原因になります。その結果、また歯が抜けてしまうようになるのです。
歯が抜けた時、たとえ1本だけであっても、その1本が蟻の一穴となる可能性があります。放置しておくことはお勧め出来ません。
■インプラント治療ってなに?
インプラント治療とは、抜歯や歯周病などにより失われた歯を補うために行なわれる治療法のひとつです。
インプラント治療では、フィクスチャーとよばれる人工の歯根を顎の骨に埋め込みます。アバットメントという接続具を使って、その上に上部構造とよばれる差し歯をつけます。こうして噛み合わせや見た目のの回復を図る治療法です。
現在のインプラント治療は、スウェーデンのブローネマルクが開発した方法が主流になっています。
ブローネマルク photo by Wikipedia
ブローネマルク式の特徴は、チタニウムで作られたフィクスチャーが顎の骨に結合する点にあります。これをオッセオインテグレーションといいます。フィクスチャーが骨と強固に結合することにより、インプラントがぐらつくことなくしっかりと噛めるようになります。
○インプラント治療に保険は使えるの?
現在のところは、原則的にインプラントを保険診療を使って受けることは出来ません。
インプラント治療は自費診療となります。その費用は、各歯科医院が独自に設定していますが、おおむね1本あたり30万円くらいが相場のようです。
■保険診療で受けることが出来る補綴治療ってなに?
インプラントは、保険診療の適応外となっています。失った歯を補う治療として保険診療でも受けることが出来るのは、ブリッジと入れ歯になります。
○ブリッジ
ブリッジ photo by WIKIMEDIACOMMONS
・ブリッジってなに?
ブリッジとは、歯に固定するタイプの人工歯です。
歯に固定するために、2本以上の歯を削って被せものを装着し、その被せものを繋げることで、噛めるようにします。
・ブリッジの利点
ブリッジは、後述する入れ歯と比べてコンパクトになります。そのために違和感が少なく出来るという利点があります。
固定式なので、手入れのために取り外す必要がないので、入れ歯よりも手間が少ないです。
・ブリッジの欠点
ブリッジは、歯を削らなければ装着出来ません。歯は削ると、削った面からむし歯になったり、歯が痛み出したりする可能性があります。
連続して2本以上の歯を失った時にはブリッジをすることができません。つまり、大きさに限界があります。
入れ歯と異なり外せませんので、隙間に食べ物が挟まった時にとりにくいです。
○入れ歯
・入れ歯ってなに?
入れ歯とは取り外し式の人工歯のことです。
入れ歯には、部分入れ歯と総入れ歯があります。歯を全て失った場合に用いられるのが総入れ歯です。一方、少しでも歯が残っている場合は、部分入れ歯となります。
総入れ歯 photo by flickr
入れ歯の基本構造は、床(しょう)と人工歯(じんこうし)です。床とはピンク色のプラスチックの部分のことです。咬み合わせたときの力を受け止め支える役割を果たしています。人工歯とは歯の部分のことで、食べ物を噛んで小さくする役割があります。
部分入れ歯の場合は、床と人工歯の基本構造に加えて、クラスプや保持装置、バーが組み合わせられています。
クラスプや保持装置とは、残された歯につける金具のことです。入れ歯が落ちないように歯に引っ掛ける役割があります。バーとは左右に離れた入れ歯を繋げている金属パーツのことです。複数箇所の部分入れ歯をひとつの部分入れ歯にしすることで、入れ歯を安定させてくれます。
・入れ歯の利点
入れ歯は、歯を削ることなく入れることが出来ます。歯を削ると、削ったところからむし歯になったり、歯がしみてきたりする可能性があるので、削らないのは大きな利点です。
ブリッジと異なり、大きさに限度がありません。
入れ歯は取り外しが出来るので、外せば磨きやすいというのも入れ歯の利点です。
・入れ歯の欠点
ブリッジよりも大振りになるので違和感が大きいです。
入れ歯の裏側には食べ物が入りこむので、毎食後外して洗わなければなりません。寝る前にも外して歯茎を休ませなければなりません。このように手間がかかるのも欠点です。
クラスプが目立ったりすると、見た目にも影響してしまいます。
■インプラント治療との比較
では、インプラント治療にはブリッジや入れ歯を比較した場合、どのような特徴があるのでしょうか。
写真はイメージです。 photo by pixabay
○インプラント治療の利点
ブリッジのように歯を削る必要がありません。そのために歯を削ることによるデメリットが生じなくなります。
入れ歯のようにクラスプが目立ったり、毎食後外さなければならないこともありません。旅行や外食したときなど、人前で入れ歯を外して洗わなければならない様なことがなくなります。
上部構造にセラミック製の差し歯を用いることで、見た目がとても自然に仕上がります。保険のブリッジや入れ歯は人工物感が拭いきれないので、見た目のきれいさは比べられません。
○インプラントの欠点
保険診療の適応が受けられないので、費用が非常に高額になってしまうという点があげられます。
顎の骨にフィクスチャーを埋め込むという外科処置が必要となります。そのため、心臓疾患や脳疾患など何らかの病気を持っている様な場合、受けることが出来ないことがあります。
フィクスチャーを埋め込む際に、骨に厚みが足りない場合は、インプラントにしっかりした安定感を得ることが出来なくなります。そこで、人工骨を埋めたり、身体の他の部分から骨を採取して移植したりして、骨の厚みを確保しなければならなくなります。
■インプラントを受けたら・・・。
インプラント治療は、上部構造を装着して終了ではありません。せっかく入れたインプラントを長持ちさせるために、メインテナンスが必要となります。メインテナンスをしっかり行なわないと、インプラントが抜けおちてしまうこともあります。
photo by MaxPixel
具体的には、日々のケアと定期的に歯科医院で受けるケアです。
日々のケアとは、毎食後の歯みがきのことです。歯ブラシ以外にデンタルフロスや歯間ブラシを使って、歯ブラシが苦手とする歯と歯の間まで磨くことが大切です。
そして、磨ききれないところや、歯ブラシではとれない歯石を定期的に歯科医院でとってもらうことで、インプラントのメインテナンスを図りましょう。
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