歯科でも緊急入院はあるのです!! 歯科の緊急入院とは

■はじめに

歯科治療というと、歯科クリニックでむし歯を削って詰めたり、歯周病で歯石を取り除いたりという外来診療がイメージされると思います。

けれども、歯科の病気でも入院での治療が必要となる場合も珍しくはありません。しかも、入院は入院でも緊急の入院となることもあるのです。歯科で緊急入院とは想像しにくいと思います。

歯科での緊急入院についてまとめてみました。


写真はイメージです。 photo by flickr

■急性と慢性について

病気の分類法のひとつに、病気の経過から分類する方法があります。経過の視点からみると、急性(きゅうせい)と慢性(まんせい)に分けることが出来ます。それに加えて、もうひとつ亜急性(あきゅうせい)というのもあります。

急性とは、急激に症状が発現する状態のことを指します。病気の症状が急激に悪化していきますが、病気によっては治るのも急速である場合もあります。

慢性とは、長期間にわたって症状が持続する状態のことです。病気の症状が、長期にわたってゆっくりと進行していくことです。慢性に経過する場合、急激に症状が変化することは稀です。気がつかないうちに進行しているというのが特徴です。

亜急性とは、急性と慢性の中間です。急性の症状からは脱したけれど、治りが遅く、病気の症状が続くもののことです。

 

○歯科の病気と急性と慢性分類について

歯科の病気といえば、むし歯や歯周病といっても過言ではないくらい、むし歯や歯周病は歯科を代表する病気です。

むし歯や歯周病は、長い年月をかけてゆっくりと着実に進行していく病気なので、慢性に分類されます。ですから、歯科の病気は、慢性の病気が多いという見方も出来ます。

他、歯科でも嚢胞(のうほう)とよばれる膿がたまったおできの様なものや、腫瘍の治療も診療の対象となることがありますが、嚢胞も腫瘍も慢性の病気です。

歯周病は、慢性の病気ですが、急に腫れたり痛んだりすることがあります。これを急性転化といいます。つまり、慢性の病気でも急性にかわることがあるのです。

また、歯科でもケガの治療をすることがあります。

交通事故や転倒などで歯や顔を打つことは珍しくありません。ケガは急性に分類されます。

 

■歯科で入院治療?

あまり知られてはいませんが、歯科でも治療するために入院が必要になることがあります。特に、近年の社会の少子高齢化の進展により、入院して治療に当たる症例は、年々増加する傾向にあります。

入院治療は、予定入院と緊急入院にわけることができます。

○予定入院

入院日と初診日が異なる入院治療のことです。入院日を予約してあらかじめ決めているタイプの入院です。

歯科の場合は、腫瘍を摘出、もしくは切除したり、嚢胞を摘出したりするような場合が該当します。つまり慢性の病気の手術が行なわれるのが、予定入院といえます。

 

○緊急入院

初診の日に、そのまま入院して治療となるのが緊急入院です。実に慌ただしい入院となります。

予定入院とは異なり、緊急入院は急性の病気が対象となります。

 

■歯科での緊急入院の対象となる病気について

慢性の病気を主に診ている歯科でも、緊急入院をして治療しなければならない場合があります。以下に代表例を挙げてみましたが、その他の場合でも緊急入院しなければならないことはあります。

 

○蜂窩織炎(ほうかしきえん)

お口の周囲に限らず、身体の中には筋肉と筋肉の間など、組織と組織の間には隙間があります。この隙間は他の隙間とも繋がっており、ここに炎症が波及したとき、隙間を介して炎症の範囲が広がっていきやすいという性質があります。

蜂窩織炎とは、組織と組織の間の隙間に急激に炎症が広がっていく病気のことです。

歯科の診療対象では、蜂窩織炎を起こしやすい病気として、代表的なものが智歯周囲炎、いわゆる親知らずの炎症があげられます。

親知らずは上下顎にありますが、症状はそれぞれ異なります。

上顎の親知らずが原因の蜂窩織炎を起こすと、上顎洞という鼻の横、眼の下にある空洞に炎症が波及します。すると、上顎洞炎、もしくは副鼻腔炎という鼻の炎症を起こします。いわゆる蓄膿です。そして、顔の輪郭に従ってはれていき、顔の半分が腫れたり、さらに上に広がると目が開けにくくなったりするようになります。ひどい場合は目から膿が出てくることがあります。

一方、下顎の親知らずが原因の場合は、上顎洞に広がることは稀です。頬が腫れて顔の半分が腫れてきます。それに伴って、口が開けにくくなったりします。しかし、本当に恐ろしいのは顔が腫れてくることではありません。


写真はイメージです。 photo by pixabay

親知らずの腫れが外に広がると顔が腫れて来るのですが、内側に広がってくるほうが実は怖いのです。内側に広がった場合、外に広がったときほどに顔が腫れてくることはありません。ところが、内側に炎症が広がると、喉を通して、炎症が下方に広がりやすいという性質があるのです。

頚のリンパ節が防衛ラインとして炎症をくいとめようとしますが、頚のリンパ節を突破された場合は、縦隔という胸の辺りにまで広がってくることがあります。ここにまで広がってくると命に関わることになります。

つまり、親知らずの炎症は、最悪の場合、命さえ左右してしまうことがあるのです。最近は、効果の高い抗菌薬がたくさん開発されましたから死亡する頻度は減少しましたが、抗菌薬がなかった昭和の前半までは、親知らずが原因の蜂窩織炎をひき起こして死亡してしまう例がたくさんあったそうです。

なお、蜂窩織炎の原因としては、親知らずの他にむし歯や歯周病もあります。たかがむし歯と侮ってはたいへんなことになりかねません。

 

○帯状疱疹

帯状疱疹とは、VZV(水痘帯状疱疹ウィルス)によっておこされるウィルス感染症のひとつです。

歯科の場合は、三叉神経とよばれる顔の感覚を司る神経の走行に従って皮膚の表面に小さな発疹や水ぶくれができてくることが多いです。痛みや違和感も伴います。


帯状疱疹 photo by WIKIMEDIACOMMONS

放置しておくと、水ぶくれが広がります。そして、瘢痕とよばれる痕として残ることがあります。

普通は、皮膚にでた症状が治まってくると、痛みや違和感も消えてきますが、そうでないこともあります。これを帯状疱疹後神経痛といいます。場合によっては激しい痛みを伴うこともあります。

こうならないように、帯状疱疹を疑わせる症状を認めた場合は、緊急入院をして抗ウイルス薬の点滴を行なうことがあります。

 

○外傷

最近は自動車のシートベルト着用率や、バイクのヘルメットの装着率の向上により以前と比べて減少する傾向にあります。しかし、今でも交通事故による下顎骨や上顎骨の骨折は比較的多く起こっています。

交通事故でなくても、転倒、けんかなどいろいろな原因で骨折は起こります。顎の骨の骨折も緊急入院の対象となることが多いです。

上顎の骨折の場合は、ただちに手術になることは少ないです。骨折した部分のずれが少なく、腫れが引いた後に顔のゆがみも少ない場合は、手術適応とならないことが大半です。

しかし、上顎骨は薄いので、眼の下の骨にまで骨折が広がってしまうことがあります。この場合は、眼球を動かしにくくなったり、モノが二重に見える複視を起こすことがあるので手術になります。ただし、この手術は歯科や眼科ではなく形成外科が行なうことが多いです。

上顎の骨折は、腫れの経過をみる必要や、鼻出血の可能性があるので緊急入院の適応となります。


写真はイメージです。 photo by pixabay

一方、下顎の骨折の場合は、上顎の骨折のときのように腫れが引くまで待つことは稀です。もちろん、上顎と下顎の両方の骨折の場合は別です。手術をするなら同時にする方がいいので、上顎の腫れが引くのを待ちます。

下顎の骨折は、2カ所以上折れている場合、もしくは骨折した部分のずれが大きい場合は手術となります。骨折部位が1カ所の場合やずれが小さい場合は、手術をしないで治すこともあります。

どちらにせよ、下顎の骨折は、食事をとりにくくなったり、腫れが内側に広がってくると喉が圧迫されて呼吸困難になったりする可能性があります。特に夏場に食事がうまくとれないと、脱水を起こしかねないので要注意です。そのために下顎の骨折は、緊急入院の対象となります。

 

■まとめ

歯科でも緊急入院をして、治療をしなければならない場合はあります。蜂窩織炎や帯状疱疹、外傷などが代表的です。蜂窩織炎は命に関わることがありますし、帯状疱疹は、神経痛の原因となることもあります。外傷は治療のために手術が必要となることがあります。

歯科で緊急入院となると、驚かれることもあると思います。実は治療に緊急性を伴う病気が、歯科の診療対象に含まれていることがあるのです。

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