夏型過敏性肺炎 夏になると「せき」や「夏かぜ」に悩まされていませんか

[夏になると咳が出るのですが]

専業主婦のS子さん(52)は、2年ぐらい前から梅雨の時期になると悩まされる症状がありました。それは「しつこいかわいた咳、息切れ、だるさ」です。夏の間は症状を繰り返していましたが、「今年もだわ。夏かぜはしつこいから」と思い医者には行きませんでした。

少し気になったのが「息切れ」でしたが、歳だからと考えてしまいました。実家に帰省した時や旅行にでかけると不思議と症状が落ち着きます。

しかし、家に帰ってくると症状がぶり返します。「家になにかあるのかしら」と思いましたが、一緒に暮らしている旦那さんや高校生の子供はなんともありません。

夏が終わって、涼しい季節になってくると症状がピタッとおさまります。「やっぱり夏カゼだったわ」とほっと息をなでおろします。そのせいもあり、秋になるとおさまるからと我慢していました。

それから6年後、S子さんは夏とは関係なく少し歩くだけや階段を上るだけで息苦しくなるようにまでなっていました。

「病院に行かないと」と思っていた矢先、ある日、突然、激しい咳に襲われ息ができません。顔色がみるみる青ざめていきます。救急車で病院へ。そこで告げられた病名は・・・。

夏になると乾いた咳や息切れがすることはありませんか。

毎年、夏風邪が長引いて困っていませんか。


写真はイメージです。 photo by deviantart

このような症状で疑われるのが「夏型過敏性肺炎」です。夏型過敏性肺炎についてみていきましょう。

 [夏型過敏性肺炎とは]

原因はカビです

トリコスポロンというカビがまき散らす胞子が原因になります。この胞子を吸いこむことでアレルギー反応を起こして発症します。

トリコスポロンは高温多湿を好み、日当たりや風通しが悪い湿気の多い場所で発育します。温度が20度以上、湿度が60%以上で発生しやすくなります。湿度80%以上で急速に増殖します。

温度や湿度が高くなる6月~10月に発生します。以前は、梅雨のない寒冷な地域では発生しないと言われていましたが、最近の住宅は気密性が高いので気をつけてください。

発生しやすい環境

築20年以上の木造家屋、湿気の多い場所に建てた家、鉄筋コンクリートの2階から3階から下の低層階、水害なので床下浸水を起こした家など。なお、職場が原因になる場合もあります。

発生しやすい場所

浴室、脱衣場、雨漏りした天井裏、台所の流し台の下、冷蔵庫の下、畳やカーペットの下、腐った木枠、エアコン、除湿器などの風通しが悪い場所や湿気がこもりやすい場所です。

発症しやすい人は

自宅など特定の場所に長い時間いる事が多い方に発症がみられます。とくに自宅にいることが多い専業主婦の方に多く見られます。罹患数は女性が男性の2倍以上です。

症状には急性期と慢性期があります

急性期

6月から10月の時期に発症します。「かわいた咳、微熱、だるさ、息苦しさ」が主な症状です。夏風邪と似ていますが、一度、発症すると、毎年、夏の間は症状が続きます。原因となる場所を離れると症状がおさまるのが大きな特徴です。

毎年、症状を繰り返すと炎症によって肺胞の壁が、だんだんと肥厚化して硬くなり線維化を起こして縮んでしまいます。線維化を起こした肺胞は元には戻りません。このよう状態にならないためにも急性期の間に治療することが大事になります。


肺胞 photo by WIKIMEDIACOMMONS

肺胞は私たちの肺の中に3億~6億個ある小さな袋状のもので、二酸化炭素と酸素の交換を行う重要な役割をしています。肺胞は呼吸に合わせて空気が出入りして膨らんだりしぼんだりします。線維化してしまうとこの動きができなくなります。

慢性期

線維化が進むと季節性がなくなってきます。少しの距離を歩くことや階段を上るだけで息が苦しくなり、呼吸困難がだんだん強くなっていきます。高熱、激しい咳、マジックテープをはがすような呼吸音などの症状が現れます。 進行が進むと肺不全を起こして命に関わります。

どのような検査が行われるの

検査はレントゲン検査、CT検査、血液検査、肺機能検査、気管支鏡検査、誘発試験などを行い、患者さんの生活環境も踏まえてほかの似たような症状の病気を除外します。とくに、血液検査によるトリコスポロン抗体検査は感度や特異度が高く有用な検査です。

治療や予後は急性期と慢性期では違います

どのような症状の場合でも「抗原回避-トリコスポロンの吸入を回避すること」を必ず行わなくてはなりません。

自宅が原因の場合は家のなかのエアコン、加湿器、洗濯槽、浴室、台所など水周りの徹底的な掃除と消毒や風通しをよくするなどの工夫が必要です。目に見えない場所に潜んでいる事もあります。カビ掃除などの専門業者に委託してもいいでしょう。場合によっては、改築や転居も視野に入れる必要があります。[夏型過敏性肺炎は予防から]の項目も参考にしてください。

症状の改善が見られない場合や症状が重い場合には入院して治療を行います。入院して良くなっても、抗原回避が十分でないと元に戻ってします。

急性期

症状が軽い場合には無治療で経過をみることがあります。症状が改善しない場合にはステロイドを短期間使用します。抗原回避が確実に行われれば予後は良好です。

慢性期

ステロイドや免疫抑制薬などを使用します。酸素吸入が必要になる場合もあります。線維化した肺胞は元に戻りません。線維化は進んでいくこともあるので医師の管理下で治療や経過観察を続ける必要があります。

[夏型過敏性肺炎を予防するには]

夏型過敏性肺炎にかからないように予防することも大事になります。風通しが悪い場所や湿気がこもりやすい場所がポイントです。

・家の中に湿度がこもらないように窓を開け放って、雨が降っている日を除いて換気を毎日行いましょう。エアコンの除湿機能や除湿機または空気清浄機を使うのも有効です。

・カビの生えやすい浴室、脱衣所、洗面所、台所水回りなどを掃除しましょう。浴室につては湯上りに乾いたタオルで拭くのも有効です。

・カビがある場所を掃除する場合は、マスクを着用してカビを吸い込まないように気をつけてください。カビのある場所で掃除機を使用はしないでください。逆に、胞子をまき散らします。

・防カビ剤を用いるのも有効です。使用説明書をよく読んで使用してください。台所まわりについては消毒用エタノールをスプレーなどしてから拭いてください。

・寝具はよく日干しするか布団乾燥機を使用してください。カーペットやカーテンもできるだけ洗いましょう。

・古い住宅の場合には、畳を取り替えることや腐った木を取り除くことも検討しましょう。

・エアコンや空気清浄機などは取扱説明書にあるフィルターの交換時期を守り、水洗いも一週間に一度程度行います。エアコンは使い始める前に専用の洗浄液で掃除してください。一年に一回、清掃業者に頼んでもいいでしょう。


写真はイメージです。 photo by PEXELS

[気になる症状があればお医者さんへ]

かわいた咳や息切れがいつまでもとれない、風邪がだらだらと長引くなど気になる症状や心配な症状があれば病院を受診してください。呼吸器内科を受診するとよいでしょう。

夏型過敏性肺炎について説明してきましたが、夏型過敏性肺炎は過敏性肺炎のなかの一つです。過敏性肺炎は鳥の排泄物、枯草の真菌、化学物質、薬物などでも発症することもあります。

過敏性肺炎の中で夏型過敏性肺炎の占める割合は70~75%です。ほかの過敏性や細菌性などの肺炎、喘息、肺結核なども同じような症状の病気もあります。症状が長引くようでしたら迷わず病院を受診してください。

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