咽頭に生じる悪性腫瘍、咽頭がんについて

■はじめに

口を大きく開けると奥の方に空洞のようなところが見えます。これを咽頭といいます。


写真はイメージです。 photo by illust AC

 

咽頭は実は見える部分だけでなく、その上方にも下方にも広がっています。

この咽頭に悪性腫瘍が発生することがあります。

それを咽頭がんと言います。

咽頭がんについてまとめてみました。

 

■咽頭って?

咽頭とは、口と食道の中間にある器官です。咽頭は、解剖学的に上咽頭・中咽頭・下咽頭の3つに分類されます。


咽頭 photo by illust AC

○上咽頭

鼻の奥から上顎骨の上方までの範囲で、鼻から入った空気の通り道となっています。

 

○中咽頭

上顎骨から舌骨までの範囲で、口を開けると見える部分です。

中咽頭は、鼻から入った空気と口から入った食べ物の両方が通過するところとなっています。

ちなみにこの両側にあるのが風邪などでよく腫れる扁桃腺です。

 

○下咽頭

舌骨から食道つながるまでがその範囲です。

下咽頭も空気と食べ物の両方の通り道ですが、ここで気道と食道が分かれています。

 

■咽頭がんってなに?

咽頭に発生する悪性腫瘍のひとつです。

人体の頭部から頚部にかけての範囲を頭頸部といいます。咽頭がんは、頭頸部に生じる悪性腫瘍のうち、およそ30%を占め、近年は増加傾向にあるといわれています。

咽頭がんの原因としては、他の悪性腫瘍と同じくタバコやアルコールの刺激が挙げられますが、ウィルスやお口の中の汚れも関連しているといわれています。


写真はイメージです。 photo by photoAC

咽頭がんは、リンパ節転移だけでなく、他の臓器への遠隔転移の発生割合も他の悪性腫瘍と比べて高いとされ、咽頭がんの予後不良の原因のひとつといわれています。

 

■咽頭がんの検査

咽頭がんの診断には、腫瘍を疑われる部位から細胞を採取し、病理学的に診断を行いますが、場所によっては鼻からの内視鏡検査を行って細胞を採取することもあります。

腫瘍の病期分類を行うために、CTやMRIで腫瘍の大きさや周囲組織への浸潤具合を診査します。特に、造影して行うCT検査は周囲への浸潤を調べる上で重要です。

全身への転移の検索には、PET-CTが有用です。

 

■咽頭がんの症状

咽頭がんは、発生初期に自覚症状が乏しいという特徴があり、何らかの症状を覚えた時にはかなり進行してしまっていることも珍しくありません。

咽頭がんの代表的な症状は、食べ物を飲み込みにくくなるというものです。

これは、咽頭が食べ物が通過する器官であるからです。そこに悪性腫瘍ができるために飲み込みにくくなるのです。

また、悪性腫瘍ができることで喉に炎症が生じることがあり、扁桃腺が腫れたり、喉の痛みを感じたりします。

咽頭は頸部にもあるので、悪性腫瘍がそこを圧迫することで、首が締め付けられるような感じがします。そして、声がかれたり、息がににくくなったりもします。

上咽頭に生じた場合は、脳神経に浸潤し頭痛が生じたり、視力が低下したり、難聴になったりするなどの症状が現れます。


写真はイメージです。photo by illust AC

■咽頭がんの分類

咽頭がんは、発生した場所から上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がんの3つにわけられます。同じ咽頭がんですが、その正確はそれぞれ異なっています。

 

○上咽頭がん

上咽頭がんは、上顎より上部の咽頭腔、鼻より後方に発生する悪性腫瘍です。

上咽頭がんの病因としては、タバコやアルコール以外に、エプスタインバールウィルス(Epstein-Barr Virus)が関与しているとされています。

欧米人には少ないけれども、東南アジアに、特に中国南部に多く見られる悪性腫瘍です。

病理学的には、上咽頭がんは、口腔がんと同様に扁平上皮癌というタイプの悪性腫瘍が多いです。なお、扁平上皮癌もさらに分類されます。上咽頭がんは、低分化型というタイプの扁平上皮癌です。

咽頭がんそのものの頚部リンパ節に転移を生じる確率は比較的高いのですが、上咽頭がんについては、約80%と非常に高率になっています。


首周辺のリンパ節 photo by illust AC

○中咽頭がん

中咽頭がんは、側壁(扁桃)・前壁(舌根)・上壁(軟口蓋)・後壁にさらに分類され、このうち側壁(扁桃)がおよそ60%を占めます。

中咽頭がんの病因としては、タバコやアルコールだけでなく、パピローマウィルス(HPV)の関与も指摘されています。

病理学的には、中咽頭がんは場所によって病理学的に性質が異なっています。

側壁(扁桃)や前壁(舌根)付近については悪性リンパ腫の比率が高い一方、上壁(軟口蓋)の付近は扁平上皮癌であることが多いです。

軟口蓋とは、上顎の最も奥に当たるところのことです。ここには骨の裏打ちがないので、お口を大きく開けて「あぁ〜」と声を出すと動きます。軟口蓋の前方を硬口蓋といい、硬口蓋までが口腔、軟口蓋からが喉とされています。

上咽頭がんとは異なり、上壁(軟口蓋)付近の扁平上皮癌は高分化型が多いです。

 

○下咽頭がん

下咽頭がんは、50歳以上の男性に多く見られる悪性腫瘍で、近年は増加傾向を示しています。


写真はイメージです。 photo by photoAC

発生した部位から梨状陥凹・後壁・輪状軟骨後部にさらに分類され、そのうち梨状陥凹に生じるものが大多数を占めています。その病因にはタバコやアルコールが挙げられますが、下咽頭がんのうち輪状軟骨後部がんについては、女性によく見られるプランマー・ヴィンソン症候群が誘因となって発生すると考えられています。

下咽頭は、リンパ流が豊富なので、頸部リンパ節への転移が多いという特徴があります。

頭頸部癌の中では最も予後不良とされています。

 

■咽頭がんの治療法

咽頭がんの治療法は、各咽頭がんによって異なってきます。


写真はイメージです。 photo by photoAC

○上咽頭がん

悪性腫瘍の手術では、一般的に腫瘍の周囲に10[mm]ほどの安全域を設けて切除術を行います。

しかし、上咽頭がんが生じる場所の解剖学的な位置関係により、安全域を設けて切除術をすることが不可能です。そこで抗がん剤を使う化学療法と、放射線療法を

組み合わせた化学放射線療法、もしくは放射線療法のみが治療法となっています。

上咽頭がんは、頭頸部癌のうちで唯一化学療法が標準治療として推奨されているという特徴があります。他の頭頸部癌では、化学療法はあくまでも補助療法としての位置付けです。早期がんであれば放射線治療単独療法、それ以上の進行度であれば化学放射線療法を行います。

化学療法では、5-FUとシスプラチンを併用するのが一般的ですが、進行癌の放射線療法前の導入化学療法には、ドセタキセルを加えた3剤を使う場合があります。

 

○中咽頭がん

放射線治療に感受性が高いことが特徴です。

治療方針は、悪性腫瘍の根治性や治療後の機能的な欠損を考慮して、外科的切除術か化学放射線療法のいずれかを選択します。

ステージⅠ・Ⅱ期の5年生存率は80〜90%、Ⅲ期は60%、Ⅳ期は40%ですので、早期発見すれば、予後は比較的良好です。

このステージとは、がんの進行度合いを示す指標です。

Ⅰ・Ⅱ期の治療は、口腔内から腫瘍切除術ができる状態であれば、手術が第一選択となります。たとえ、前壁(舌根)の中咽頭がんであっても、頸部からの切除が出来れば、手術後の機能面での障害は少ないとされています。

Ⅲ・Ⅳ期は、腫瘍切除術か、化学放射線療法のいずれかを選択します。

腫瘍切除術が行われた場合、切除の範囲によっては再建手術を行う必要が生じます。

化学放射線療法では、シスプラチンを使用するのが一般的です。なお、側壁(扁桃)の進行癌であっても、パピローマウィルス関連のものであれば、手術を行わなくても化学放射線療法で十分効果が得られることもあります。


写真はイメージです。 photo by photoAC

○下咽頭がん

早期癌か進行癌によって治療方針は異なります。

早期癌であれば、放射線療法または化学放射線療法によって治療が行われ、外科手術は行われません。

一方、進行癌に対しては、下咽頭及び喉頭の全摘出術、または化学放射線療法が行われます。一部の下咽頭がんでは、喉頭を残しつつ咽頭のみを切除する喉頭温存咽頭部分切除術が行われることがあります。これは喉頭を摘出することによる機能的障害を抑え、なおかつ悪性腫瘍の根治性も求めた手術方法です。したがって、ただ単に喉頭を残せば良いというものではなく、喉頭の持っている機能をいかにして障害せずに温存させるかが大切と言えます。

 

■まとめ

咽頭がんは、咽頭の解剖学的特徴から上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がんの3つに分類されます。

それぞれ特徴が異なり、それに応じて治療法も異なってきます。

特に上咽頭がんは、悪性腫瘍の進行度に関係なく、手術の適応がないという特徴があります。

予後は下咽頭がんが最も悪いですが、どの咽頭がんであってもできるだけ早期に治療を受ける方が、予後はいいです。


写真はイメージです。 photo by illust AC

初期には自覚症状に乏しいという特性がありますが、喉の周囲に何らかの異変を感じた場合は、早期に耳鼻咽喉科で検査をしてもらうことをお勧めします。

 

 

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