エネルギーを蓄える脂肪組織とエネルギーを消費する脂肪組織

はじめに

BMI (Body Mass Index)は、体重 (kg)を身長 (m)の二乗で割った値であり、肥満の程度を表す指標として用いられています。2016年にLancetに発表されたデータによると、BMI30以上の肥満者の割合は、1975年には男性3%、女性6%でしたが、2014年にはそれぞれ11%、15%まで増加しており、この割合は今後さらに増加すると予想されています (The Lancet, 387(10026), 1377-1396, 2016)。


写真はイメージです。 photo by pixabay

白色脂肪組織と褐色脂肪組織

肥満の発症には、脂肪組織が大きく関与していますが、脂肪組織は、白色脂肪組織と褐色脂肪組織に大別されます。

白色脂肪組織は、皮下や内臓周囲など全身に多量に存在している白色の脂肪組織です。体内に取り込まれた栄養素は、細胞内でエネルギーに変換されたり、貯蔵できる形に変換されて蓄えられたりします。白色脂肪は優秀な貯蔵庫であり、空腹時など外界からのエネルギー供給が途絶えた際に、細胞内の貯蔵エネルギーを全身に分配します。しかし、食の欧米化に伴う脂質摂取の増加、自家用車や公共交通機関の普及、日常生活のオートメーション化によってエネルギー摂取が消費を過剰に上回ると、白色脂肪細胞の増加や肥大化が起こり、肥満を発症します。

一方、褐色脂肪組織は、肩甲骨の間や腎臓の周囲など、限られた部位に少量のみ存在する褐色の脂肪組織です。褐色脂肪細胞は交感神経に富み、ミトコンドリアというエネルギー産生を担う細胞小器官が豊富に存在します。また、ミトコンドリア内にはエネルギーを熱に変換する機能を持つ、脱共役たんぱく質1 (UCP1)が多く発現しています。UCP1による熱産生は一見、エネルギーの無駄遣いのように感じますが、これは冬眠動物や体の小さい哺乳類の体温維持のために非常に重要な機能なのです。このように、褐色脂肪はエネルギー消費を担っていることから、褐色脂肪が活発に働くと、肥満を解消できると期待されています。


PET/CT検査での女性の褐色脂肪組織 photo by wikipedia

ヒトでの褐色脂肪組織の発見

従来、ヒトでは、褐色脂肪組織は乳幼児にのみ存在し、成長に伴って消失すると考えられてきました。しかし近年、がん診療における「PET-CT検査」によって、成人のヒトにも褐色脂肪組織が存在することが明らかとなりました。

がん細胞は、正常な細胞に比べて活動的なためより多くのエネルギー(糖)を取り込みます。PET-CT検査では、標識された糖を体内に注入し、その集積具合を画像で診断することによって、がん細胞の有無を調べます。すると、明らかにがん細胞が無い場所へ糖の集積が確認され、その場所が褐色脂肪組織の発現部位と重なったのです。

また、ヒトの褐色脂肪組織量は、BMI、体脂肪率、内臓脂肪面積、皮下脂肪面積と負の相関関係にあることも明らかとなっています

第3の脂肪 ベージュ脂肪

先ほど、白色脂肪はエネルギー貯蔵を担っていると言いましたが、寒い場所で過ごすなどによって交感神経を刺激すると、一部が褐色脂肪のように熱を産生する脂肪に変わることが明らかとなりました。この脂肪は、白色と褐色の間をとって「ベージュ脂肪」と呼ばれています。白色脂肪がベージュ脂肪へと変わるメカニズムは分かっていませんが、このベージュ脂肪への変わりやすさが肥満になりやすいか、なりにくいかに関わっているのかもしれません。


写真はイメージです。 photo by photoAC

おわりに

肥満、特に内臓脂肪蓄積型肥満は、心血管疾患や脳梗塞を引き起こす動脈硬化の発症を誘発します。心血管疾患と脳血管疾患合わせた死亡者数は、悪性新生物による死亡者数に匹敵することから、その発症を予防する、また早期に改善することが重要です。今後さらに研究が進んで、褐色脂肪やベージュ脂肪の働きが解明されることが期待されます。また、私たち自身も日頃から適度な運動やバランスの良い食事を心がけることが大切ですね。

 

 

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