良性疾患における子宮全摘手術時の付属器切除が死亡リスクに関連している?

子宮や卵巣に病変がある場合、手術が選択されることがあります。手術が適応となる疾患としては、子宮頸癌や子宮体癌といった子宮の悪性腫瘍をはじめ、子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮内膜増殖症でも子宮を摘出する場合があります。

さらに、子宮頸癌や子宮体癌は進行度によって両側付属器(卵巣など)も切除することがあります。また、その他の疾患でもホルモンが与える影響などを考慮して、同時に切除される場合があります。

いっぽうで、2017年2月のBMJにて「良性疾患を有する閉経前症候群の患者さんの子宮摘出時の卵巣組織の保存と摘出」という報告があるように、良性疾患の場合、卵巣機能が正常なままであれば、卵巣を温存したほうが、死亡リスクを改善するという報告もあります。


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〇子宮の良性疾患とは

子宮の良性疾患とは、子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮内膜増殖症など、悪性ではないものを指します。

まず子宮筋腫とは、子宮にできる腫瘍ですが良性のものをさします。症状の重さや筋腫の種類などのよって、経過観察の場合と薬物治療を行う場合、そして手術を行う場合があります。

手術の場合は、腫瘍のみを摘出する「筋腫核出術」という手術が行われることもありますが、腫瘍のみを摘出するのが困難な場合や根治治療をめざす場合は子宮をすべて取り除く「単純子宮全摘出術」が行われます。

次に子宮腺筋症とは、何らかの原因で子宮内膜様組織が子宮筋層に入り込み、月経に伴って増殖・肥厚する疾患です。

そのため、月経痛や月経過多などを訴えて、受診して、画像検査で特徴的な子宮筋層の肥厚を認めます。この場合、まずはNSAIDSやピルなどによる薬物療法から始めますが、子どもを出産する希望(挙児希望)がない場合や薬物療法で効果がみられない場合は手術が行われます。

手術としては子宮腺筋症が生じている部分のみを切除する「子宮腺筋症切除術」か、子宮を取り除く「単純子宮全摘出術」が行われます。

そして、子宮内膜増殖症とは、子宮内膜が過剰に増殖してしまうもので、一部は子宮体癌に移行する前がん病変であることもあります。そのため挙児希望の有無に応じて治療方針も異なりますが、挙児希望がある場合は内膜全面掻把術+高容量MPA(酢酸メドロキシプロゲステロン)の投与が第一選択とされ、挙児希望がない場合は単純子宮全摘出術+両側付属器切除が一般的となります。


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〇子宮全摘出術とは

子宮全摘出術とは、その名の通り子宮をすべて取ってしまうものなのですが、方法としては大きく分けて3種類あります。

1つは膣式と呼ばれるもので、膣から子宮を摘出するものです。2つ目はお腹をあけて子宮を摘出する開腹子宮全摘出術、そして3つ目はお腹を大きく開けずに内視鏡にて子宮を摘出する腹腔鏡下子宮全摘出術です。

膣式や腹腔鏡による手術では開腹術に比べて傷が小さく、身体への負担も少ないため、近年では多く行われています。

ただしすべての患者さんが膣式や腹腔鏡手術を受けられるというわけではなく、良性であり、子宮の重さが約400g未満で癒着がないもの、などと条件がある場合があります。

 

〇卵巣のはたらき


女性の内性器の構造 photo by illust-ac

子宮の良性疾患であれば、卵巣を温存できれば温存するという方針の病院が現在では多くあります。実際にある研究でも、卵巣を温存している人の方が全摘した人に比べて、虚血性心疾患や癌がんなどによる入院リスクや死亡率が有意に低いと報告されています。

卵巣は、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンを分泌する器官のため、子宮と併せて切除することで、これらの分泌が減少します。これにより閉経後の症状が現れたり、身体的にも様々な影響が及ぼされます。

まず1つ目が骨粗鬆症です。

通常エストロゲンは骨代謝に深く関係しており、エストロゲンが低下することで骨吸収が骨形成のスピードを上回るために骨密度が低下し、骨粗鬆症の原因となるとされています。

2つ目が、動脈硬化や心筋梗塞などです。エストロゲンはコレステロールのうち悪玉コレステロールとよばれるLDLを下げるはたらきがあります。

しかし、卵巣を切除してエストロゲンが分泌されなくなると、急激に血中のLDLが増えてしまうことがあります。これによって血管が傷つき、動脈硬化や心筋梗塞などが起こりやすくなると考えられています。

このように、卵巣が身体に及ぼす影響は全身に及びます。そのため子宮全摘出術時に付属器切除を併せて行うことで、その後の死亡リスクに差が出ると考えられています。

 

 

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