多剤耐性結核にたいする新規抗結核薬 ベダキリンフマル酸塩(商品名;サチュロ錠100mg)

結核は、世界10大死亡原因の一つにもなっており、年間150万前後の方が亡くなっていると報告されています。日本でも10万人あたり約14人が結核に罹患しているといわれており、近年では、既存の抗結核薬にたいして耐性をもつ菌の出現も問題となっています。

肺結核の症状と治療

結核は、おもに結核菌(Mycobacterium tuberculosis)により引き起こされる感染症で、日本では約8割が肺に感染します。発病すると、咳や痰、微熱などの風邪に似た症状が長く続くのが特徴です。進行すると、肺が破壊されていき、倦怠感や息切れなどの症状が発現し、血を吐いたり呼吸困難となり命を落とすこともあります。


Mycobacterium tuberculosis photo by wikipedia

発病すると、自身の健康だけではなく、咳やくしゃみなどにより菌を体外へ排出し、周りの人たちにも感染を広げる(空気感染)危険性があるため、発病が確認されたら医師の指示のもと適切な治療を継続して行うことが必要となります。

肺結核の治療では、基本的に数種類の薬を併用して完治を目指します。現在は、結核菌に抗菌活性をもつリファンピシン、イソニアジド、ピラジナミドに、エタンブトールまたはストレプトマイシンを加えた4剤の併用療法を2ヶ月間行ったのち、リファンピシン、イソニアジドを4ヶ月継続し、計6ヶ月間にわたり薬物治療を行う強化短期療法が一般的になっています。

多剤耐性結核菌の発現

結核の治療は、適切な薬を継続して服用することが大切となります。自己判断による服用中断や、不適切な治療は、耐性菌を発現させる原因となるため注意が必要です。

近年では、リファンピシンとイソニアジドの両剤にたいして耐性を獲得している多剤耐性結核菌や、多剤耐性結核菌のなかでも、多剤耐性結核菌の治療に用いられるニューキノロン系抗生剤およびアミカシン、カナマイシン、カプレオマイシンのいずれかに耐性をもつ超多剤耐性結核菌が確認されており、世界中で問題となっています。


写真はイメージです。 photo by illust-ac

多剤耐性結核菌に罹患した場合、治癒率は約50%と言われるほど治療は困難な状況となっており、新しい治療薬の開発がのぞまれています。

多剤耐性結核菌にたいする新規治療薬

そのなか、2018年1月、新たに多剤耐性結核にたいする治療薬として製造販売が承認されたのが、「ベダキリンフマル酸塩(商品名;サチュロ錠100mg)」です。

「多剤耐性肺結核」に適応をもち、用量・用量は、「通常、成人には投与開始から2週間はベダキリンとして1日1回400mgを食直後に経口投与する。その後、3週以降は、ベダキリンとして1回200mgを週3回、48時間以上の間隔をあけて食直後に経口投与する。」となっています。

また、使用にあたっては、耐性菌の発現を防ぐため、原則として他の抗結核薬およびベダキリンに対する感受性を確認し、感受性を有する既存の抗結核薬3剤以上に上乗せして併用する必要があります。

通常、生物は、生存や増殖、運動をするためにATPとよばれるエネルギーを産生する必要があります。それは、結核菌でも同様であり、細胞内のATP合成酵素によりつくられています。ベダキリンは、結核菌のATP合成酵素を選択的に阻害し、増殖期および休眠期の結核菌に強い活性をしめす抗結核薬です。

多剤耐性結核菌の治療薬として、すでにデラマニドが承認されていますが、デラマニドは、ミコール酸(細胞壁の構成成分)の生成を阻害する作用を持つ治療薬のため、ベダキリンとは作用機序が異なっています。

国内の臨床試験では、多剤耐性結核をもつ患者さん(6例中有効性解析対象例は4例)を対象に抗結核薬に加えてベダキリンを投与したところ、喀痰培養陰性化までの時間は14または15日で、24週時の喀痰培養陰性化率は100%となったことが報告されています。また、海外での臨床試験でも、プラセボ群に比べて喀痰培養陰性化までの時間および陰性化率ともに有意差がみとめられています。

副作用は、50%(6例中3例)にみとめられており、肝機能障害、血沈亢進、ざ瘡が1例ずつ報告されています。海外の臨床試験(335例)でも、49.6%の患者さんに副作用がみられ、主な副作用は、悪心(18.2%)、関節痛(17.0%)、頭痛(13.1%)、嘔吐(12.2%)でした。


写真はイメージです。 photo by photo AC

多剤耐性結核菌は世界中で問題となっており、効果的な新薬・治療法の誕生がのぞまれています。今回、日本で新しい結核菌治療薬が承認され、今後の多剤耐性結核の治癒率向上に貢献することが期待されています。

 

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