におい物質が血糖値を下げる!? 低血糖の心配がない新しい糖尿病治療薬開発への期待に

[におい物質が血糖値に影響する!?]

血糖値と聞くと気になる方が多いのはないでしょうか。テレビのコマーシャルでも血糖値という言葉をよく耳にしますよね。

2018年1月に「におい物質が血糖値に関係する」という報告を東北大学の研究グループが「Olfactory receptors are expressed in pancreatic β-cells and promote glucose-stimulated insulin secretion(Scientific Reports)」として国際科学誌「Scientific Reports」に発表しました。

においというと「鼻で嗅ぐこと」が思い浮かびますよね。今回の研究ではにおい物質を感知する「嗅覚受容体」といわれるたんぱく質がすい臓にもあることがわかりました。

「血糖値となにか関係あるの?」と思ってしまうところですが血糖値と大きな関係があることも判明しました。このことは新しい糖尿病の治療戦略になることが期待されています。

研究の成果をみていくまえに血糖値について簡単にみていきましょう。

[血糖値というと]

わたしたちが生きていくために欠かせないエネルギー源となるのが「ブドウ糖」です。ブドウ糖は血液中に存在します。血液中にどのくらいの割合でブドウ糖が存在するかを「血糖値」であらわします。

血液検査結果photo by hakucyo

食事をするとブドウ糖は腸で吸収されて血液中のブドウ糖が増えます。すい臓から放出される「インスリン」というホルモンの働きで肝臓や筋肉などに取り込まれてエネルギーとして利用されます。このインスリンの働きによって通常は一定の範囲に血糖値はおさまっています。

生活習慣、遺伝、薬物、病気などが原因となってインスリンが少なくなる、働きが悪くなると血液中からブドウ糖をうまく体内にとりこめなくなることで血液中のブドウ糖が高くなってしまう状態が「高血糖」です。高血糖が続くと「糖尿病」などをはじめとするさまざまな病気の原因となります。

高血糖ではなく低血糖という言葉を耳にすることがありますよね。低血糖はいろいろな原因がありますがよくみられるのが糖尿病の薬物療法に伴うものです。糖尿病の治療にはインスリンや血糖値降下剤も用います。

治療を受けている人が食事を抜く、激しい運動をすることなどで血液中のブドウ糖が少なくい状態にもかかわらず薬が効きすぎて血糖値が必要以上に下がってしまった状態が「低血糖」です。ほかにも薬の量を間違えてたくさん飲んだ、インスリンを多く打ち過ぎたりした時なども低血糖になります。

高血糖も低血糖も命に関わるものです。糖尿病の患者さんは血糖値を一定に保つために日ごろの生活や体調管理に非常に気を使うことが必要になります。

血糖値の自己検査photo by wikimedia

このようにわたしたちの健康にとって血糖値はたいへん重要なものです。この重要な血糖値に関連する今回の研究についてみていきましょう。

[すい臓ににおいを感知する嗅覚受容体の発見]

わたしたちがにおいを感知するための働きを担っているのは「嗅覚受容体」です。嗅覚受容体はにおいの分子をとらえるセンサーの役割をもっています。鼻の上部にある上皮にあって脳ににおいの情報を伝える役割を持つ「嗅細胞」いわれる細胞の表面に存在しています。

今回の研究ではこの嗅覚受容体がすい臓のβ細胞にもあることが世界ではじめて発見されました。すい臓のβ細胞はインスリンを分泌する役割を担っています。なんとなく血糖値と関係ありそうな気がしてきましたね。

研究グループは嗅覚細胞の中のひとつである「Olfr15(嗅覚受容体15)」に着目しました。マウスを用いて実験したところ、におい物質である「オクタン酸」と呼ばれる脂肪酸がこの受容体に作用した場合にインスリンの分泌が促進されることがわかりました。

オクタン酸は天然ではココナッツや母乳などに含まれる物質です。わたしたちが口にする食品ではココナッツオイルやバターに多く含まれます。抗菌作用がありカンジタ症やバクテリア感染症の治療にも用いられています。

 

すい臓photo by wikimedia

実験ではオクタン酸を経口投与したマウスとオクタン酸を投与していないマウスにブドウ糖を投与することで比較実験を行いました。

オクタン酸を投与したマウスは投与していないマウスと比較すると血糖値が上がる前には同程度だった血中のインスリン濃度が血糖値の上昇につれてインスリンの分泌も上昇して15分ほどで約1.5倍高くなりました。

インスリンの濃度が高くなってからは血糖値の上昇が非常に緩慢になり30分を過ぎたころから速やかに低下して血糖値が改善されたが確認されました。また Olfr15の発現を抑えるとこのような効果は見られないことも確認されています。

これらの研究からインスリンの分泌が促進されるのは血糖値が高くなっている時のみに生じることもわかりました。つまり、血糖値が高くない場合にはインスリンの分泌はみられないので低血糖になってしまうことがないということになります。

[今までにない糖尿病治療薬の開発へ]

今回の発見はインスリンの分泌の新しいメカニズムを明らかにしたものです。糖尿病の原因はさまざまですが日本人において多くはインスリンの分泌低下が重要な因子となっています。

インスリン治療薬photo by pixaboy

研究グループは「今回、発見されたすい臓のβ細胞における嗅覚受容体の活性化によるインスリン分泌の促進は日本における糖尿病治療のニーズに合致したものと考えられる」と述べています。

今回の研究成果を応用することで「低血糖の心配をせずに血糖値を下げるという今までにないメカニズムの糖尿病の治療薬」の開発につながることが期待されています。このような薬が開発されれば糖尿病に悩んでいる方にとってひとつの朗報になるのではないでしょうか。

 

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