武田薬品工業がシャイア―社を合併へ 希少疾患の大手リーディングカンパニーである「シャイア―社」とは

2018年5月に、武田薬品工業はアイルランドの製薬会社大手の「シャイアー社」を買収することで合意したと発表、10月18日には、日本公正取引委員会から独占禁止法上問題ないとする承認を取得したと発表がありました。

武田薬品は、すでにアメリカと中国でも同様の承認を取得しています。残るヨーロッパについては、近々に当局の判断がでるとされています。今後は、12月5日の臨時株主総会での同意を得た上で正式な買収手続きがスタートする予定です。

武田薬品のシャイアー社の買収金額は約6兆8千億円という大型買収です。

今回の買収で、武田薬品のクリストフ・ウェバー社長兼CEOは「研究開発型グローバルバイオ医薬品企業のリーディングカンパニーとなることがビジョン」、「買収によって年間4000億円以上の研究開発投資可能になることで、売上高では世界の製薬企業のトップ10入りを果たせる」と説明しています。

※現在、武田薬品の売上高は国内で1位、世界で16位です。

武田薬品が買収をすすめている「シャイア―社」はどのような会社なのでしょうか。

[シャイア―社とは]

-シャイアー社は4人ではじめたベンチャー企業-

シャイア―社の設立は1986年。創業者は4人ではじめたベンチャー企業です。最初に開発したのは骨粗鬆症の医薬品でした。

当初の本社はイギリスのベイジングストークはおかれていましたが、2008年にアイルランドのダブリンに移転。現在では世界各国で事業を展開、従業員数は23000人の大きな企業です。

アイルランド-ダブリンphoto by wikimedia

シャイアーが得意としているのが希少疾患に関する医薬品の開発や製造です。その研究および開発能力は世界でもトップクラスの力を持っているといわれています。「自社販売、アウトライセンス、提携」の3つのチャンネルで事業を展開しています。

2017年12月度のシャイア―社の売上高は約1兆6500億円、純利益は約4600億円と急成長を遂げてきた会社です。武田薬品の2017年3月度の売上高は約1兆7300億円、当期純利益約1150億円です。武田薬品より大きな収益力を持っています。

-シャイアー社の歴史はM&A

ベンチャー企業であるシャイアー社が急成長を遂げていった原動力となったのが積極的なM&Aです。

写真はイメージです。photo by pixaboy

シャイアー社がM&Aに費やした金額は主なものだけで6兆円を超えています。

最初の買収1997年で、アメリカの徐放性ドラッグデリバリー製品のファーマビン社とADHD治療薬のリッチウッド・ファーマシューティカル社を買収。

2000年代に入ってからは、ADHD治療薬のカナダのバイオケム・ファーマシューティカル社、リソソーム蓄積疾患治療薬を持つアメリカのトランスカリオティック・セラピーズ社、ADHD治療薬のアメリカのニューリバー・ファーマスーティカルズ社、遺伝性血管性浮腫治療薬のドイツのジェリニ社など設立から20年にわたって20社以上を傘下に収めています。

トランスカリオティック・セラピーズ社を買収したことで、生物学的製剤の開発へ進出して希少疾患の開発に注力するようになりました。

2013年には、慢性便秘治療薬のベルギーの消化器系創薬メーカー・モベティス社、培養皮膚を供給する再生細胞メーカーのアメリカのアドバンスド・バイオヒーリング社、輸血による鉄過剰治療薬を開発するアメリカのフェロキン・バイオサイエンス社、表皮水疱症など皮膚病治療の補充療法技術を持つアメリカのロータスティシューリペア社、眼科用バイオ医薬品会社のアメリカのSARコード・バイオサイエンス社、サイトメガロウイルスやC型肝炎ウイルス感染治療薬のアメリカのバイロファーマー社を1年間で一気に買収。

その後も、短腸症候群や副甲状腺機能低下症などの治療剤を手がけるアメリカのNPSファーマシューティカルズ、血液製剤大手であるアメリカのバクスアルタ社を次々と買収。「血液、免疫、腫瘍」といった治療分野への進出を遂げていいます。

シャイアー社は日本の拠点を2013年に設立、日本においてシャイア―社が展開している治療薬は「本態性血小板血症、ゴーシェ病、ADHD、遺伝性血管性浮腫、血友病A、血友病B、無ガンマグロブリン血症および重症感染症」です。

日本で展開している治療薬は一部のもので、日本で承認されていない治療薬、ほかの製薬メーカーへライセンス販売している治療薬など「消化器系疾患、精神神経系疾患、希少疾患、血漿分画製剤」にさまざまなラインナップを持っています。

-豊富なパイプラインを持つシャイアー社-

シャイアー社は、第I相臨床試験から承認審査中のものまで含めると約40本の豊富なパイプラインを抱えています。パイプラインとは一言でいうと新薬候補の事で、多くのパイプラインを持っている会社が規模の大きさの指標になると言われています。

写真はイメージです。photo by photo-ac

約40本のパイプラインのなかで、製品化が見込まれる第III相臨床試験以降のものだけで20本以上あります。それに対して武田製薬のパイプラインは35本で第III相臨床試験以降は14本となっています。

第I相臨床試験から第II相臨床試験のものとして「異染性白質ジストロフィー、ハンター症候群、副甲状腺機能低下症、緑内障、小細胞肺がん、慢性肺疾患、痙攣発作、アラジール症候群、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症、非アルコール性脂肪性肝炎、クローン病、全身性エリテマトーデス、膵がん」など。

第III相臨床試験以降ものとして「ハンター症候群、抗体関連拒絶反応、移植患者のサイトメガロウイルス感染症、好酸球性食道炎、成人短腸症候群、小児短腸症候群、感染性結膜炎、潰瘍性大腸炎、先天性血栓性血小板減少性紫斑病、慢性炎症性脱髄性多発ニューロニューロパチー、小児一次免疫不全、慢性特発性便秘、ドライアイ、急性リンパ芽球性白血病、フォンヴィルブラント病」など。

普段は耳にしないような疾患も多く含まれていますよね。シャイア―社が「血液系希少疾患、神経系希少疾患、消化器系疾患、眼科系疾患」などに力を入れているのがわかります。武田製薬は「がん、消化器系疾患、神経精神系疾患」などに力を入れています。

[今後はどうなるの]

武田製薬の時価総額は約3兆6000億円です。武田製薬の時価総額の倍近い6兆8千億円でシャイアー社を買収するのはなかなか考えられる事ではありません。どのような利点が得られるのでしょうか。

武田薬品東京本社photo by wikimedia

武田製薬はシャイアー社を買収することによって、武田薬品が従来から力も入れていた消化器系疾患や神神経精神系疾患の領域が強化され、希少疾患や血漿分画製剤においてグローバルな規模のリーディングカンパニーとなることを目指しています。

シャイア―社の多くの製品化の期待ができるパイプラインを一挙に得られることは、新薬開発が抱える多額の開発費や製品化できないといったリスクの問題も一気に解決できることが考えられます。

シャイア―社が持っている販売網も併せて獲得することができ、武田製薬の販売網も大きく広がり、日本を拠点としたグローバル企業のひとつとして成長してくことが期待されています。

武田薬品のクリストフ・ウェバー社長兼CEOは「シャイアー社の高度に補完的なポートフォリオとパイプライン、さらには経験豊富な研究員が加わることで、強く当社の変革が加速します。統合後の会社は消化器系疾患領域、神経精神疾患領域、がん領域、希少疾患領域、血漿分画製剤におけるリーディングカンパニーとなり世界中の患者さんに利益がもたらされるでしょう」と述べています。

シャイアー社のスーザン・キルスビー会長は、「当社は、過去30年にわたり希少疾患治療のグローバルリーダーであり革新的な医薬品をお届けしてきました。今回の統合は、さらに強靭な豊富な研究開発パイプラインと世界各地に広範な拠点を有するバイオ医薬品企業誕生の一翼を担うことになります。社会の皆さんに最良の結果をもたらすものと確信しています」と述べています。

写真はイメージです。photo by pixaboy

今回の買収については、武田製薬がシャイアー社の負債2兆円超を背負うことになること(シャイア―社の買収費用など含めた負債は合計で約6兆円になります)、希少疾患などといった分野の競争が激しいことや将来性はどうなのかなど不安材料があるといわれています。

武田薬品の社長兼CEOとシャイア―社会長の述べている通りに、今回の統合でさまざまな疾患で苦しんでいる患者さんに最良の結果や利益がもたらされることがもっとも望まれることではないでしょうか。今後の動きが注目されますよね。

 

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