歯に異常がないのに起こる顔面部の激しい痛み、三叉神経痛かも・・・。

■はじめに

顔面に、電気が走った様な激しい痛みが生じることがあります。上顎や下顎の痛みとして感じられることがあり、むし歯や歯周病が痛みの原因ではないかと歯科医院を受診してみても、歯に異常は認められません。痛み止めも効かず、やむなく歯を削って詰めたり、神経を取り除いたりしても、やはり痛みはなくなることはなく、依然として繰り返します。そんなとき、もしかしたらその痛みの原因は三叉神経痛とよばれる神経痛かもしれません。

三叉神経痛についてまとめてみました。


写真はイメージです。 photo by photoAC

■神経痛とは?

そもそも神経痛とは何なのでしょうか?

神経痛とは、特定の神経の支配している領域に限って、発作的に、かつ繰返し痛みが生じる病気のことです。ここで説明する三叉神経痛のほかにも、舌咽神経痛や坐骨神経痛などをいろいろな神経痛があります。

 

○神経痛の特徴

神経痛にはいろいろな種類がありますが、その症状には共通した特徴が認められます。

痛みが、突然生じる発作性の激痛で、発作がない時には何らの痛みも生じません。

神経痛の激しい痛みには、その発作を誘発する箇所があり、その場所を刺激すると痛みが生じます。この発作を誘発する場所のことをトリガーゾーンといいます。

痛みの発作が起こる前に、痛みの前触れが認められることはないので、突然に激しい痛みに襲われます。

痛みが生じる部位は、神経痛を起こしている神経の走行に一致しますので、一定した箇所に生じます。

三叉神経痛の場合も、同じような症状を呈します。


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■三叉神経とは

全部で12ある脳神経のひとつ、第5番目の脳神経のことです。主に顔面部の感覚を司っていますが、食べものを噛んだり飲み込んだりする運動にも関与しています。

三叉神経は、側頭骨の三叉神経圧痕の上で半月神経節を作り、ここから先、3つに分岐して走行します。分岐した三叉神経の枝を上から順に一枝、二枝、三枝とよび、それぞれに眼神経、上顎神経、下顎神経と名称がつけられています。なお、三叉神経という名称はここからきています。

 

○三叉神経の支配領域

・三叉神経第一枝

第一枝は、顔面の上方3分の1の感覚を司っている神経です。眼から上、つまり額の部分にあたるところです。

感覚のみを司っています。

 

・三叉神経第二枝

第二枝は、顔面の真ん中3分の1、上顎の辺りを支配領域としている感覚の神経です。

感覚のみを司っています。

 

・三叉神経第三枝

第三枝は、顔面の下3分の1くらいの領域、下顎の辺りを支配している神経です。

第三枝は唯一、感覚と運動の両方を司っており、食事の際の嚥下などに関与しています。

 


ヒト頭部における三叉神経各枝の分布(緑:眼神経、赤:上顎神経、黄:下顎神経)
photo by wikipedia

■三叉神経痛ってなに?

三叉神経の支配領域に沿って発作性に現れる神経痛のことです。

三叉神経痛を起こす割合は、男女比は2:3で男性よりも女性に多いとされています。年齢では、50代以降に多く認められ、若年層で発症する頻度は低いです。

三叉神経は、3つの神経に分かれますが、第一枝に起こることは稀です。第二枝と第三枝、すなわち上顎神経と下顎神経の走行沿ってよく発症します。顔の両側に起こることはほとんどなく、たいていが、右側だけ、もしくは左側だけといった片側性の痛みとして現れます。

三叉神経痛の起こる原因は、脳の血管が動脈硬化を起こし、三叉神経を圧迫することではないかと考えられています。

 

■三叉神経痛の種類

三叉神経痛は、特発性三叉神経痛と症候性三叉神経痛の2種類があります。

○特発性三叉神経痛

一般に三叉神経痛というと、この特発性三叉神経痛を指します。

特発性とは、特に変わった症状であるにも関わらず、原因がはっきりしないという意味です。

いまでは、以前はよくわからなかった特発性三叉神経痛ですが、最近ではその原因はかなりわかってきました。しかし、現在も変わらずこのようによばれています。

 

○症候性三叉神経痛

特発性に対し、原因がはっきりしているもののことを、症候性といいます。

つまり、以前から原因のはっきりしている三叉神経痛のことです。症候性三叉神経痛の原因となるものには、腫瘍や炎症、外傷など、さまざまな病気が挙げられます。

 

■三叉神経痛の原因

○特発性三叉神経痛

血管が膨張して三叉神経を圧迫することが原因と考えられています。

 

○症候性三叉神経痛

症候性三叉神経痛の場合は、腫瘍が原因で起こったとする報告もあり、特に若年層で三叉神経の第一枝に生じた三叉神経痛のうち、角膜反射も弱くなっているようなら腫瘍が原因である可能性が高いとされています。

 

■三叉神経痛の症状

○特発性三叉神経痛

特発性三叉神経痛の痛みは、突然に生じる顔面がえぐられる様な耐え難い痛みです。痛みは非常に激しいものの、その多くは1〜2分程度の短時間におさまります。中には10〜20分に及ぶ時間継続することもあり、重症化すると断続的に繰り返すようになるため、日常生活し支障を来すほどになることもあります。


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痛みが生じる部位は、三叉神経に第二枝や第三枝が多く認められます。第一枝のみに起こるのは、三叉神経痛全体の5%に満たないほどにまれです。

多くの特発性三叉神経痛は、片側性の痛みですが、3〜5%は両側性に生じることから、必ずしも片側性だけとは限りません。

8割ほどの症例に発作を誘発するトリガーゾーンが認められます。トリガーゾーンは、三叉神経の第二枝や第三枝の領域によく存在しており、洗顔や歯みがき、ひげ剃り、冷たい風にあたるなどの日常的にありふれた刺激により痛みが発生してしまいます。

痛みが起こった時には、顔の筋肉がけいれんを起こすことが多いです。

 

○症候性三叉神経痛

特発性三叉神経痛の症状に加え、三叉神経の感覚低下や異常感覚を認めたりします。痛みの持続時間が長かったり、トリガーゾーンがない、痛みが顔の奥から生じてきたりする、角膜反射が低下するといった特発性三叉神経痛には認められない症状を呈します。

特発性三叉神経痛が痛みを主たる症状としていたことに対し、症候性三叉神経痛では痛み以外にもさまざまな症状が認められる点が特徴的です。

 

■歯の痛みとの見極めが大切

三叉神経痛は顔面に現れる痛みです。食事や歯みがきといった刺激が発作の引き金になることがあります。三叉神経の走行によって痛みが生じるために上顎や下顎の痛みとして感じられることもあり、患者さんは虫歯や歯周病の痛みだと思って歯科医院を受診します。

患者さんの訴えから歯科医院で歯の痛みと思い、むし歯の治療や歯周病の治療をしますが、痛みは治りません。訴えのある痛みが、三叉神経痛の痛みか歯に原因のある痛みかをしっかりと区別しなければならないのです。

三叉神経痛とむし歯や歯周病を見極めるポイントがいくつかあります。


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痛みが、短時間で消える激しい痛みであること。歯や歯周組織とよばれる歯を支えている組織に、肉眼的、かつレントゲン写真上、異常となる所見がなく、歯に冷たい刺激や温かい刺激に対する反応がないこと。この上で、トリガーゾーンがあれば、三叉神経痛である可能性が高いです。

三叉神経痛の場合に、歯の治療をしても意味がありません。一度削った歯は元には戻りません。歯の治療のほとんどは不可逆性の治療です。三叉神経痛なのか、歯が原因なのかをしっかり見極めて判断することがたいせつです。

なお、歯科医師でも三叉神経痛の治療を受けることは可能です。顔面部の激痛を主訴に歯科医院を受診することは間違いではありません。

 

■三叉神経痛の治療法

○薬物治療

三叉神経痛の薬物治療では、カルバマゼピン(carbamazepine)やフェニトイン(phenytoin)という薬が使われます。

カルバマゼピンは、商品名がテグレトール、フェニトインは、商品名がアレビアチンやヒダントールとよばれる薬で、一般に抗けいれん薬として知られています。

第一選択薬となるのがカルバマゼピンです。1日あたり100[mg]を1日2回にわけるか、または寝る前の1回投与から開始します。その後、2〜3日おきに100[mg]ずつ増やして痛みが起こらなくなる量にまで増やしていきます。痛みが起こらなくなったときの量が維持量となります。

この維持量を数週間から数ヶ月間継続したのち、徐々に減らしていきます。

カルバマゼピンだけでは効果が弱いときなどには、フェニトインをカルバマゼピンに追加します。もし、カルバマゼピンにアレルギーがあるなら、フェニトイン単独で用います。

フェニトインもカルバマゼピンと同じく、初回は少なめの投与から開始され、徐々に増やしていきます。維持量に達した後は、数週間から数ヶ月継続したのちに減量を開始します。

フェニトインは、点滴投与も可能です。痛みが激しく飲めない場合でも投与することが出来ます。

漢方薬が有効であったとする報告も認められます。漢方薬では、五苓散や紫胡桂枝湯、小柴胡湯などが用いられます。特に五苓散の効果が高いとされます。


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○神経ブロック療法

薬物療法で効果がない場合に、考慮されます。

神経ブロックとは、薬や熱を使って神経を遮断し、感覚を伝わらなくする治療法です。神経ブロックに用いられる薬には、局所麻酔薬と神経破壊薬があり、前者は数時間で元の状態に戻ります。痛みを取り除く効果も数時間でおさまる筈ですが、その後長期にわたって痛みが軽くなっていくこともあります。

一方、神経破壊薬はエタノールが代表的ですが、1年から数年にわたって感覚を低下させる効果があるので、除痛効果も同じくらい続きます。低下した感覚が戻ってくるにつれて、痛みが再燃してきます。その時は再度神経ブロックを行ないます。

 

○外科的治療

微小血管減圧術が行なわれます。これは特発性三叉神経痛の唯1つの根治的治療法です。

三叉神経が血管によって圧迫されているところに対して、圧迫を解除します。これにより痛みを取り除きます。微小血管減圧術に効果があるかどうかは、神経を圧迫している血管があるかどうかにかかってきます。その存在をMRIによって調べておかなければなりません。

 

■まとめ

三叉神経痛は、顔面部に生じる非常に激しい痛みを繰り返す病気です。トリガーゾーンを刺激すると痛みが発生することや、痛みが激しい反面、ほとんどの場合痛みは短時間で消失するのが特徴です。50代以降の女性に生じやすいです。

3つある三叉神経の枝のうち、第二枝や第三枝によく起こるので、上顎や下顎の痛みと間違えてしまうことがあります。そこで患者さんは歯の異常を調べてもらうために歯科医院を受診します。

三叉神経痛の症状は、とても特徴的です。歯の痛みとは異なる痛み方をします。歯の治療をしても三叉神経痛の痛みはなくなりません。三叉神経痛の治療は、カルバマゼピンなどの抗けいれん薬の投与が第一選択となってきます。

適切な治療を受けるためには、三叉神経痛を的確に診断することが求められます。

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