声を失うかもしれない喉頭がん

■はじめに

声を出すために必要な器官が声帯ですが、これは喉頭にあります。

この喉頭に悪性腫瘍が発生することがあり、これを喉頭がんといいます。

喉頭がんも悪性腫瘍のひとつですから、放置すると命に関わります。喉頭がんの治療によっては、声を出すことが出来なくなり、社会生活に非常に大きな影響が生じます。

そんな喉頭がんについてまとめてみました。


写真はイメージです。 photo by pixabay

■喉頭ってなに?

○喉頭ってなに?

喉頭とは、気道ののど仏の付近に相当する場所にあります。甲状軟骨など6個の軟骨で形成されています。

鼻から入った空気は、中咽頭までは食べ物と同じルートをたどりますが、中咽頭で分かれ、喉頭を経て気管を通過し肺に送られます。

 

○喉頭の役割

人間は、声を出してコミュニケーションを図ります。この声を出すところが喉頭にある声帯です。

また、喉頭から先は肺に至る空気の通り道、気管となっています。ここに食べ物が入り込むと誤嚥性肺炎の原因にもなり、非常に危険です。喉頭には喉頭蓋という蓋がついており、食べ物が誤って入り込まない様に防いでいます。

したがって、喉頭には、空気を肺に通すだけでなく、声を出したり、食べ物などが誤って肺に入り込むのを防いだりする役割もあります。

 

■喉頭がんってなに?

喉頭に発生する悪性腫瘍です。頭頸部に発生する悪性腫瘍のうち、およそ25%を占めます。日本国内では、毎年2000名ほどが発症していると推定されています。

喉頭がんは男女間で発症に差があり、男女比は7〜10:1と男性に発症することが圧倒的に多いです。

喉頭がんで死亡した患者さんを喫煙者と非喫煙者で比べると、喫煙者の割合が非喫煙者と比べて13倍と非常に多くなっています。喫煙が喉頭がんの危険因子であることがわかります。

喉頭がんは、他の頭頸部癌と比べて肺がんの合併率が高いという特徴もみられます。


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■喉頭がんの症状ってなに?

喉頭がんは、場所によっては発生初期から症状が出やすいという特徴があります。

喉頭がんの症状としてまず挙げられるのが、声かれや声のかすれです。喉頭がんになると喉頭にある声門に影響しますので、こうした症状が現れます。

気道が腫瘍の拡大にともない狭くなることで、息苦しさも感じます。

また、喉頭はのど仏の付近に当たる場所にあるので、喉の痛みや違和感も生じます。

痰に血が混じったり、喉のあたりにしこりが出来たりします。

喉頭がんのために喉頭とその周囲の筋肉の動きが悪くなり、食べ物を飲み込みにくくなることも症状として挙げられます。


写真はイメージです。 photo by photoAC

■喉頭がんの検査

喉頭がんの検査では、喉頭内視鏡による検査が有効です。喉頭がんであることを確定するためには、腫瘍細胞を採取して行なう生検が欠かせません。

腫瘍の範囲やリンパ節などへの転移の有無を調べるためには、CTやMRIなどの画像検査が必要です。造影CTも有効です。

CT検査を行なうと、喉頭を構成する軟骨への深部浸潤の有無の診断ができます。

全身への転移を調べるためには、PET検査を手術前に実施することが勧められます。

 

■喉頭がんの分類

喉頭がんは、発生した部位から声門上、声門、声門下の3つに分類されます。


喉頭 photo by wikipedia

○声門上がん

声門上がんとは、喉頭蓋の付近に生じる喉頭がんです。

声門がんに次いで多いのが、この声門上がんです。喉頭がんの30〜35%が声門上がんといわれています。

声門上がんのうちおよそ50%で頚部リンパ節への転移を認めます。

 

○声門がん

声門がんとは、声帯に生じる喉頭がんのことで、声帯がんともよばれます。

喉頭がんのうち最も多いのが声門がんで、60〜65%を占めています。

声門がんの頚部リンパ節への転移は少なく、10%弱の頻度となっています。

 

○声門下がん

声帯の下方から、気管の上部にかけて生じた喉頭がんです。

喉頭がんのうちで声門下がんの占める割合は、極めて少ないです。

声門下がんのうち、約半数が頚部リンパ節に転移を起こします。

声門下がんは、喉の奥にあたるところなので、他の2種の喉頭がんと比べて症状が現れにくいという性質があります。


喉頭の構造(vocal cords;声帯 epiglottis;喉頭蓋)photo by wikipedia

■喉頭がんの治療法

○喉頭がんの治療方針

他の悪性腫瘍と同じく、喉頭がんの治療は悪性腫瘍の根治を目的とします。

根治を目指すための方法としては、放射線療法と手術があります。がんの状況によって、選択されます。

また、手術は喉頭全摘出術となることが多いです。ところが喉頭を摘出してしまうと、会話や食事などの日常生活に影響が生じます。そこで喉頭全摘出術と同じ程度の生存率を確保出来る目処が立つのなら、喉頭の機能を温存を図った治療法も選択されます。喉頭の機能を温存することができれば、通常の鼻呼吸やお口からの食事が可能となりますので、手術後の生活の質、いわゆるQOLの点からも利点は大きいです。


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○声門上がん

早期がんであれば、放射線療法が第一選択となり、その腫瘍制御率は70〜80%以上です。

まだがんの大きさが小さい段階での手術の場合は、内視鏡による切除術が選択出来ますが、切除する範囲によっては気管切開をしなければなりません。

声門の上部にまで少し広がった場合の手術は、喉頭全摘出術の適応です。

 

進行がんの場合は、手術が第一選択になってきます。

声帯の機能が完全に失われるほどに大きくなった場合は、喉頭全摘出術が第一選択ですが、状態によっては化学放射線療法を行なった後、再発を認めた場合に喉頭全摘出術を行なうという選択肢もあります。

さらに進行し、がんが喉頭の外側の隣接組織をこえて、背骨や縦隔など広い範囲に進展した場合は、手術の適応そのものがありません。化学放射線療法か、緩和ケアの対象となります。


写真はイメージです。 photo by pixabay

○声門がん

早期がんであれば、治療の第一選択は放射線療法です。その腫瘍制御率は声門上がんと同じく70〜80%以上です。

 

進行がんの場合は、放射線療法よりも外科手術の適応となってきます。

声帯を動かすことが出来なくなったり、声門の周囲組織にまでがんが進展した場合は、状態によっては喉頭を温存する手術が可能とされますが、基本的に喉頭全摘出術が行なわれます。

ただし、状態によっては手術を第一選択とせず、化学放射線療法を行い、再発時に喉頭全摘出術をする選択肢もないわけではありません。

がんが喉頭の外側にまで進展した場合は、喉頭全摘出術が行なわれます。一部の限られた症例では喉頭を温存する手術が選ばれます。

さらに進行し、がんが喉頭の隣接組織をこえて、背骨や縦隔など広い範囲に進展した場合は、手術の適応がなくなります。化学放射線療法による治療か、積極的な治療を行なわずに緩和ケアの対象となります。

 

○声門下がん

声門下がんは、自覚症状が現れにくいため、症状が現れ検査を受けた時には既に進行がんになっていることが多いです。そのため、喉頭全摘出術の適応となる場合が大半です。

隣接組織をこえて全身に転移が生じた場合は、手術適応がなく緩和ケアになります。

 

○頚部廓清術(けいぶかくせいじゅつ)

喉頭がんの頚部リンパ節への転移に対して行なわれるのが頚部廓清術です。

喉頭がんが転移を起こしたリンパ節の位置によって、頚部廓清術の範囲は変わってきます。

声門上がんのうち、喉頭を全て摘出しなければならない様な症例の場合は、潜在的に頚部リンパ節を生じている可能性が考えられます。そこで、予防的に頚部廓清術を行ないます。


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■発声機能の喪失について

喉頭がんによって喉頭全摘出術を受けた場合は、発声機能そのものを喪失してしまいます。

そのままでは声を出すことが出来なくなるので、食道を使って声を出す食道発声の訓練が必要です。食道発声の技術を習得するのが困難な場合は、電気式人工喉頭の使用を考慮します。

 

■まとめ

喉頭がんは、喉頭に発生する悪性腫瘍です。喉頭がんの症状は、声がれや声のかすみ、食べ物の飲み込み困難、息苦しさ、喉の痛みなどです。

発生した位置によって、声門上がん・声門がん・声門下がんの3つに分類されます。

治療法は、喉頭がんの大きさによって異なります。

早期がんの段階で見つかれば、放射線療法で治療することが出来ます。進行がんの段階に至れば外科手術による治療が行なわれます。

もし、喉頭がんが遠隔転移をみとめる状態にまで進んでいれば、積極的な治療よりも緩和ケアが選択されます。

手術で治療な場合であっても喉頭を全て摘出するなどの、術後に大きな影響が残る手術法になります。したがって出来るだけ早期に発見し、早期に治療にかかることが大切です。


写真はイメージです。 photo by illust AC

喉のあたりに何らかの症状が認められた場合は、なるべく早期に耳鼻咽喉科で検査をしてもらいましょう。

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