金属アレルギーでも歯科治療は受けられるの? 〜歯科治療と金属アレルギーの関係について〜

■はじめに

歯科治療では、金属を用いた治療がよく行なわれます。金属を用いない治療は不可能といてもいいくらいに、歯科と金属は切っても切れない関係です。

歯科医院を受診する患者さんの中には、アレルギーをもっている方がいることも珍しくありません。アレルギーといえば、食物アレルギーや薬による湿疹、花粉症などが代表的ですが、実は金属にもアレルギー反応が生じることがあり、それを金属アレルギーとよんでいます。

金属アレルギーとは何なのでしょうか?歯科治療で使う金属との関係はどうなのでしょうか。まとめてみました。


写真はイメージです。 photo by photo AC

■金属アレルギーってなに?

○金属アレルギーとは

金属アレルギーとは、特定の金属が原因で起こるアレルギー症状のことです。金属が触れることで起こるため、接触型アレルギーに分類されます。

 

○金属アレルギーの特徴

アレルギーを引き起こす原因となる物質のことをアレルゲンと言います。実は金属アレルギーであっても、金属そのものは人体に対して抗原にはなりません。つまり、金属アレルギーには、他のアレルギー疾患とは異なり、アレルギーの原因たる金属がアレルゲンではないという特徴があるのです。

金属から溶け出した金属イオンが人体に由来するたんぱく質と結合して、抗体となり、これが免疫細胞と反応することで、金属アレルギーが生じます。

 

○金属アレルギーの症状

金属と接触した部分の皮膚や粘膜に生じるただれ、すなわち接触性皮膚炎や粘膜炎が代表的症状です。

このように歯科で使われる金属が原因の金属アレルギーは、いろいろな病気を引き起こします。

病気は多岐にわたり、口内炎や舌炎といったお口に生じるものから、掌蹠膿疱症という手足の皮膚に水ぶくれのようなものが生じるものまでさまざまです。


写真はイメージです。 photo by illust AC

○金属アレルギーの検査法

たとえば、被せものを入れた歯の周囲の粘膜に治りが悪い口内炎が生じたとして、それが金属アレルギーによるものかどうか調べる方法に、パッチテストという検査法があります。

パッチテストとは、皮膚に金属のサンプルをしばらくの間密着させて、アレルギー反応が生じるか否かを調べる方法です。

パッチテストは、歯科では受けることが出来ません。検査は皮膚科で行われます。もしも金属アレルギーが疑われる場合は、皮膚科の専門の医師に検査を依頼します。

ただし、パッチテストでは、金属アレルギーがあっても陰性との結果が出ることもあるので、必ずしも確実であるとはいえないのが現状です。

 

■歯科治療で使われる金属の種類


写真はイメージです。 photo by photo AC

現在の歯科治療では、いくつかの金属を組み合わせた合金が多用されています。歯科用合金の用途としては、被せものや入れ歯の金具から矯正治療用のワイヤーまで非常に多くの種類があり、合金なくしては歯科治療が成立しないといっても過言ではないほどです。

○歯科で使用している主な合金の種類

歯科でよく利用されている合金が、金・銀・銅・パラジウム・プラチナ・亜鉛などから構成される金合金です。

金合金は軟らかく加工しやすいうえ、サビを起こしにくく安定していることもあり、いわゆる金歯や入れ歯の金具などに使われており、最も古くから利用されている合金です。

金合金と以上に、我が国において保険診療で多用されている合金が、金銀パラジウム合金です。

金銀パラジウム合金の組成は、金・銀・銅・パラジウムなどで構成されおり、主に保険診療の被せもの、いわゆる銀歯や入れ歯の金具などに使われています。

金銀パラジウム合金の次によく用いられているのが銀合金とコバルトクロム合金で、銀合金の組成は、銀・銅・亜鉛など、コバルトクロム合金のそれはコバルト・クロムです。

銀合金は保険診療で用いられる乳歯用の被せものや、メタルコアとよばれる差し歯の心棒によく使われており、コバルトクロム合金は、入れ歯の金具や矯正歯科治療装置に用いられています。


部分入れ歯 photo by wikipedia

矯正歯科治療でよく使われる合金にニッケル・クロム合金があり、その用途は、矯正治療用のワイヤーです。

この合金はニッケル・クロムで構成されており、前述した合金とは異なり豊かな弾性があるのが特徴です。矯正歯科では、この弾性を利用して歯を動かします。

 

○歯科治療で用いられる金属の使用頻度

歯科治療では多くの金属を用いた合金が使われていますが、合金に含まれる金属の組成でみると、金・銀・銅・パラジウムの使用頻度が高いです。銀に至っては歯科用合金のうちおよそ90%に含まれており、ほとんどの合金に使われていることがわかります。次いで多いのが、約80%の合金に含まれている銅です。

一方、ニッケルやクロムの頻度は高くありません。ニッケルは歯科用合金のうち10%ほどにしか含まれていませんし、クロムはさらに少なく7%程度です。

 

○歯科用合金の金属と金属アレルギーの関係

歯科用合金に含まれる金属のうち、金属アレルギーを起こしやすいと考えられていますが、ニッケル・クロムです。これらはどちらも使用頻度が低い金属ですので、この合金に触れる機会は比較的少ないと言えます。

 

■金属アレルギーになったら・・・

もし、歯科用合金の金属アレルギーと疑われた場合はどうすればいいのでしょうか。


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○パッチテスト

歯科医が、皮膚科医にアレルギー症状について対診し、診断を仰ぎます。そして、皮膚科医は、アレルギー反応かどうかを診断た上で、金属アレルギーを起こしていると考えられるなら、その金属をパッチテストで特定します。これにより、歯科用合金による金属アレルギーかどうかが判明しますので、歯科用合金が原因であれば、次の段階です。

 

○抗原除去療法

抗原除去療法とは、アレルゲンを除去してアレルギー反応を起こさない様にする治療法です。歯科用金属に金属アレルギーが起こった場合は、その金属を含んだ合金で作られた被せものや入れ歯をお口の中から撤去し、別の材料に変えて治療します。

まずは、第一段階としてアレルゲンを含む被せものなどをお口の中から完全に取り除き、しばらく経過をみます。経過観察の期間は2〜6ヶ月です。もし、6ヶ月経ってもアレルギー症状が改善しないなら、さらに6ヶ月程度経過を観察します。

こうして一定期間経過観察しても症状が改善しない場合は、金属アレルギーではない、もしくは歯科用の金属が原因ではないかもしれません。経過をみて、アレルギー反応が改善したら、第二段階に進みます。

第二段階は、アレルゲンとなる金属を含有しない合金や、コンポジットレジンとよばれるプラスチックやセラミックなど金属以外の材料を用いての歯の治療です。この後もしばらく経過観察を行ない、アレルギー反応が生じていないかを確認します。


写真はイメージです。 photo by photo AC

○注意点

金属アレルギーを起こす金属が特定された結果、それを使った合金がもしお口の中に装着されていることが判明した場合は、その合金を除去しなければなりません。

除去するために被せものを削るのですが、その際に金属の削りカスが飛び散ります。飛散した削りカスが原因でアレルギー症状を悪化させてしまう可能性があります。

そこで除去する際には、顔にタオルや手術用の覆布をかけて皮膚への接触を減らし、そして、お口の中にたまった金属の削りカスを適切に吸い出し、患者さんにはうがいを頻繁にしてもらい、除去の際のアレルギー症状の悪化リスクを低下させ、安全に除去するようにします。

 

■メタルフリー歯科治療

金属アレルギーの対策の基本は、通常のアレルギー対策と同じく、アレルゲンとの接触を防ぐことです。

近年、歯科治療では金属を使わない治療法が数多く開発されてきました。こうした金属を使わない歯科治療のことをメタルフリー歯科治療といい、メタルフリー歯科治療の材料として、セラミックやコンポジットレジンが使われます。


歯科用のコンポジットレジン photo by wikipedia

技術の進歩により最近では、従来では難しかったブリッジ治療もセラミックで出来る様になりました。また、入れ歯も金具をつけなくても装着出来るタイプのものも開発されています。

メタルフリー歯科治療は、歯科治療後に治療した後を目立ちにくくする外見を重視した治療ですが、金属アレルギーの患者さんにとって安全性が高く、とても有効な治療法です。

保険診療の適応のあるものもあれば、そうでないものもあります。金属アレルギーの方は、一度歯科医師に相談なさるといいでしょう。

 

■まとめ

金属アレルギーは、特定の金属にアレルギー反応を生じる病気です。金属アレルギーがあり、しかもその金属が歯科治療で使われている金属であれば、お口の中から取り除きます。

取り除いた後は、数ヶ月間、経過を観察して再発がないかどうかを確認します。再発がなければ、原因となった金属を使わない、もしくは金属そのものを使わない方法で、歯を治療します。

金属を使わない歯科治療としては、セラミックやコンポジットレジンを使った方法があり、こうした治療をメタルフリー歯科治療といいます。その人その人にあった歯科診療がされるようになってきています。

 

 

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