「そーせいグループ」が認知症の治療薬の臨床試験中断を発表 認知症の新たな治療薬の今後は?

2018年9月18日に創薬ベンチャーの企業「そーせいグループ」は、ライセンスパートナーである大手製薬会社アラガン社とともに臨床試験を進めてきた「ムスカリンM1受容体作動薬HTL0018318(開発コード)」について、サルを使った長期毒性試験で予期できない毒性所見がみられたために、詳細の把握ができるまでの間は臨床開発を自主的に中断すると発表しました。

この発表は、そーせいグループ(以下、「そーせい」と記載)の株式が大きく急落するほどの大きなインパクトを与えました。今回の毒性所見は、動物実験でみられたもので臨床試験中の患者に基づくものではないとコメントしています。

そーせいグループ:Gたんぱく質共役受容体(GPCR)をターゲットに独自の創薬技術から新薬のデザインや研究開発をおこなっているバイオベンチャー企業です。提携した会社との開発や自社開発によって「中枢神経系疾患、がん、代謝疾患、その他希少疾患」などカバーしています。

-ムスカリンM1受容体作動薬HTL0018318はどんな薬なの-

写真はイメージです。photo by pixaboy

ムスカリンM1受容体作動薬HTL0018318(以下、「HTL0018318」と記載)は、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の症状を改善するための新薬として開発されたものです。

わたしたちの体内の神経伝達物質のひとつである「アセチルコリン」は、運動機能を司る骨格筋、心筋、内臓筋などの動きや記憶や認知などを司る脳の海馬の働き、血圧、脈拍、睡眠などに関与しています。

アセチルコリンは認知症に関与していて、「アルツハイマー型認知症」や「レビー小体型認知症」では脳内で異常なタンパク質が蓄積することでアセチルコリンが減少します。その結果、さまざまな症状が出現します。

このアセチルコリンを受け取る受容体を「アセチルコリン受容体」といいます。「ムスカリン受容体」と「ニコチン受容体」に大別されます。

※受容体は、細胞外から何らかの刺激を受け取って細胞内で情報として利用できるように変換する仕組みを担っています。

ムスカリン受容体は、全身に分布してM1からM5までの5つのサブタイプに分かれます。

M1:脳(皮質、海馬)、腺組織、交感神経
M2:心臓、後脳、平滑筋
M3:平滑筋、腺組織、脳
M4:脳(前脳、線条体)
M5:脳(黒質)、眼

その中でもHTL0018318のターゲットにしているM1受容体は、皮質や海馬に存在しているところから「記憶や学習」に関与していて認知症にもかかわっているといわれています。

HTL0018318はアセチルコリンの代用をする効果を持っていて、脳内の神経伝達を正常な形に近づける作用があるとされています。

アセチルコリンと受容体は鍵と鍵穴のような関係にあります。ピッタリと鍵穴に精緻するにようにデザインされなくてはなりません。

かつて、アメリカの製薬会社が開発したM1受容体への作用薬の臨床試験では認知機能の改善は立証されましたが、ほかのM系の受容体までにも作用してさまざまな副作用がでて開発中止に追い込まれています。

そーせいの開発したHTL0018318は、選択的にムスカリンM1受容体のみに作用するようにデザインされたものです。

※日本においてHTL001831は「レビー小体型認知症」のみが対象になっています。そーせいは、HTL0018318以外にも、統合失調症やアルツハイマー型認知症の神経行動症状を改善するためのムスカリンM4受容体作動薬HTL0016878の開発、M1/M4デュアル作動薬の開発も進めています。

そーせいは、業務提携行っているアラガン社と自社の子会社であるヘプタレス・セラピューティクス社とHTL0018318の認可に向けて臨床試験を進めているところです。

-開発を中断したのはなぜ-

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HTL0018318の開発を中断したのは、カニクイザルに対する9ヶ月に渡る適用使用量を上回る量で行われた長期高濃度毒性試験の結果、希少な腫瘍がみられたためです。

他の動物に対する毒性試験では、いずれの動物種においても6ヵ月までの投与で有害な事象はなかったとしています。

HTL0018318は、アメリカではアラガン社が第Ⅰ相試験、日本ではヘプタレス・セラピューティクス社がレビー小体型認知症の患者を対象に第Ⅱ相試験を実施中、ヨーロッパではヘプタレス・セラピューティクス社がアルツハイマー型認知症の患者を対象にした後期第Ⅰ相試験が完了して評価中です。

アメリカおよびヨーロッパの健康成人および軽~中度のアルツハイマー型認知症患者を含む約310人を対象に臨床試験の実施は完了していて良好な結果だったとしています。

日本においても、レビー小体型認知症患者に対象試験で最高用量を投与した28日間の臨床試験においても有害事象は報告されていません。

有害な事象についての内容の詳細は公表されていません。そーせいとアラガン社で試験結果の精査中です。また、これまでの非臨床試験および臨床試験のデータのレビューの実施を予定しているとのことです。

そーせいのチーフ・メディカル・オフィサーのティム・タスカ-は以下のように述べています。

「HTL0018318は、これまでの非臨床および臨床試験における結果では安全性に問題はなく、今回の結果に非常に驚いています。毒性試験における所見の原因を解明してHTL0018318の臨床開発をできるだけ早く再開できるよう全力を注ぎ、アルツハイマー型認知症患者およびルビー小体型認知症患者へ最良の治療薬として届けることができるように最善を尽くします」

―HTL0018318の中断は株価にも影響が―

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そーせいは、同時に「実施していた臨床試験の最短で6ヶ月延期されるとして、これによりHTL0018318の関するアラガン社からの重要なマイルストンに関する収益は2019年には見込まれなくなり、同年の売上収益への影響が見込まれます」と発表しています。

そーせいのように創薬のバイオテクノロジー企業は、新薬ができた時のインパクトが非常に大きいものがあり、新薬への期待値によって株価は支えられています

そーせいは、前年度および今年度の四半期で赤字でしたが、HTL0018318が2019年の大きな収益につながる予定でした。この収益を見込んで株価が支えられていたところがありました。今回の発表でその見込みがなくなってしまったことで株価の下落を引き起こしました。

しかし、HTL0018318の開発は一時的に中断しただけで、完全に見送ったわけではありません。

そーせいは、ほかにも研究中・開発中・臨床試験中の「がん、過食症、ニコチン依存症、ナレプレコシー、炎症性疾患、重度の低血糖症、疼痛緩和、ALS、クッシング症候群」など複数の新薬候補を抱えています。

今後、どのようになっていくかは不透明な部分が多いのは否めませんが、病気に苦しんでいる方の光明になるといいですよね。

HTL0018318については、実施していた臨床試験について第2相試験は最短でも6か月の延期が見込まれています。今回の事象の重大性の評価および原因の特定をおこなうため詳細な調査を行っています。

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日本の認知症の患者数は、2012年時点で462万人(65歳以上の方の7人に1人)という調査結果がでています。2025年には700万人(65歳以上の方の5人に1人)になると推測されています。

世界に目を向けると認知症の患者数は約4600万人、2050年度には1億5千万人になると推測されています。

認知症は、根本的な原因が不明で有効な治療方法がないのが現状です。認知症の全容解明や治療方法の確立が望まれています。

今回の問題がクリアとなってHTL0018318が認可されれば、認知症の患者さんにとって一つの治療方法となることが考えられます。今後の動きを見守っていきたいですね。

 

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