子どもの自制心は5歳ごろから遺伝的影響があらわれはじめる 自制心の基盤は実行機能

普段、意識することはなかなかないと思いますが、わたしたちが勉強、遊び、仕事、家事など行うのはなんらかの目的があるからですよね。目的を達成するためには、目的に向けた行動をとる必要があります。

目的に向けた行動をとることについて、大脳の「実行機能」といわれる機能がかかわっているといわれています。

実行機能を一言でいうと、「目的に向けて自分の気持ちや行動をコントロールする能力」です。

たとえば目的のために自分の欲求をがまんする、目的のために気持ちを切り替える、切り替えたことに集中するなどいった能力で自制心の基盤になるものです。

実行機能や自制心は、大脳の前頭前野という場所で幼児期から発達し始めて成人になっても一部が発達し、老年期になると徐々に衰えていくといわれています。

実行機能や自制心は、すべての人が同じではなく個人差があります。いままでどのように個人差が生じるのかはわかっていませんでした。

京都大学は、2018年1月に「5歳をすぎると実行機能や自制心にかかわる大脳の外側前頭前野の活動にCOMT(カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ)遺伝子が関わっている」との論文を発表しました。発表された論文は「Developmental Science」に掲載されています。

[COMT遺伝子ってなに?]

そもそもCOMT遺伝子ってどのような遺伝子なのでしょうか。

COMT遺伝子は、「COMT」というドーパミンの働きを不活性化する酵素にかかわる遺伝子です。

写真はイメージです。photo by pixaboy

COMT遺伝子は大きくわけると2つのタイプがあります。

Val/Val型:外側前頭前野のCOMTの活動が強いためにドーパミンが伝達されにくい。

Met型:外側前頭前野のCOMTの活動が弱くドーパミンが伝達されやすい。

※ドーパミンは脳内で作られる神経伝達物質です。ドーパミンはやる気、記憶、行動、認識、注意、睡眠、気分、学習などさまざまなことに影響を及ぼします。なんらかの目的にむけた行動を行う過程において放出されます。

従来からドーパミンが分泌されやすいMet型はVal/Val型より優れているということがいわれていました。しかし、近年の研究でVal/Val型は頭の切り替えなどの認知的柔軟性に優れていることがわかっています。

今回の研究は、実行機能や自制心がどのように個人差が生じるのかを遺伝子の観点からCOMT遺伝子に着目して、認知的柔軟性にポイントをおいて研究したものです。

[どんな研究をしたの]

研究チームは、3歳から6歳の子供81人を対象にして最初に遺伝子の解析をおこないどのタイプにあてはまるかを調べました。

対象になった子どもたちには、認知的柔軟性を調べることに広く用いられている手法を用いた調査が行われました。

形が同じで色の違うカードを複数セット用意して同じ色のカードを選ばせてから同じ形のカードを選ばせます。色を選ぶルールと形を選ぶルールを柔軟に切り替えることができるか確認します。

さらに、この課題中に外側前頭前野の活動を「近赤外分光法」で脳活動の変化の計測をしました。

左:認知的柔軟性のテスト 中:遺伝子が与える影響 右:外側前頭前野の活動photo by 京都大学

この結果からわかったことをまとめてみましょう。

・年齢にかかわらずにVal/Val型を持つ子どもの方がMet型を持つ子どものよりも外側前頭前野を活発に活動させている。たた

・認知的柔軟性について3歳から4歳の子どもは遺伝子の影響をあまりみとめなかった。

・5歳から6歳の子どもでは、Val/Val型を持つ子どもの方がMet型を持つ子どもよりも認知的柔軟性のスコアが高かった。

このことから遺伝子の働きが5歳から6歳になると子どもの行動(実行機能)に影響していることがわかります。

子どもの実行機能の個人差が、どのように生み出されるのかということを遺伝子の観点から示した最初の研究です。

[研究の結果からなにがわかるの]

この研究成果は、遺伝子の観点から確認されたものです。かならずしも子どもの実行機能が、遺伝的要因だけで決まってしまうということではありません。

幼児期では、子育てなど環境的要因が強い影響を及ぼすといわれています。

またVal/Val型の子どもは認知的能力に優れているという結果でしたがすべてにおいて優れているというわけではありません。

成人の研究では、Met型の人の方が会話、計算、読解など頭を使った行動するときに一時的に必要な情報を記憶する能力である「作業記憶」が得意なことがわかっています。

写真はイメージです。photo by photo-ac

今回の研究では、幼児期後期以降に、実行機能に関する子どもの遺伝的資質の違いを認めました。その資質に応じた子育て、幼児教育、子どもの支援を行うことが必要になってきます。

研究チームは、「今後はほかの遺伝子も含めた遺伝的要因と家庭環境などの環境的要因が与える影響を研究して子どもの実行機能の発達をいかに支援していくということにつなげていきたい」としています。

 

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